第40話-邂逅
「ここ……?」
「うん~そこが地上っぽいよ~」
縦穴を登りきった所はどうやら床下のようだった。
周りには乾いた砂地になっており、所々に大きめの石が砂利が混じっている。
すぐ上には木の板で覆われているので、恐らく床板だろうと思う。
つまりこの上は恐らく何処かの部屋だ。
ボウっと光を放っている【
端の方には建物の基礎があると思うのだが、時間も深夜ということもあり真っ暗で何も見えなかった。
私は服を汚さないように気をつけながら、穴から上半身を出す。
「リン、ちょっとその場所で止まっててね。私の足離しても大丈夫だから」
「うん~……」
リンは恐る恐る、掴んでいる私の足首から手を離す。
【
リンは魔法が使えないので、一人で浮いているという状態が怖いのか、壁に手を付き「早くしてね」と目で訴えかけてくる。
私は身をかがめ、床板と地面の間にしゃがみ込んで、リンに手を伸ばしゆっくりと引き上げる。
私と同じように身をかがめながら穴から這い出たリンだが……。
「カリス……お耳が痛い……」
「ふふふっ……ごめ……ふふっ」
笑ってはいけないのに、我慢できなくて口を抑えなんとか笑い声を押さえる。
リンのキレイな洗いたてのウサ耳は床板のせいで直角に折れ曲がってしまっていた。
「カリスひどい……」
リンが悲しそうな顔をしているのでさっさと部屋に潜入することにする。
「この床の向こう、穴を開けても大丈夫かな」
私は内緒話のような声色で尋ねると、リンはちゃんと私のそんな声も拾ってくれる。
リンが直角に折れた耳を両手で反対向けに折り曲げて、床板に耳をくっつけて中の音を探りだした。
(器用だ……あんなに曲がるのすごいなぁ……)
リンはその状態で床板のしばらく部屋の中に誰も居ないかを探る。
私はその姿を私は息を殺して見守っていた。
「誰も居ない~気配もしないよ~……「よし【
なるべく最小限の出力で風の刃で床板に突き刺して丸く切る。
そして重力に従い、ぱかっと蓋が外れるように落ちてくる床板。
「あっ……ってどうしたの?」
もう切っちゃったよ……と思いつつ、私は床板をそっと地面に置く。
「水音がする」
「……【
リンの額に指を当て、自分との間に魔力パスを通す。
『これで聞こえる? 念じるだけで私にも聞こえると思う』
『お~凄い聞こえる』
『それで、水音って? あ、聞こえた』
床板が無くなったことで私の耳にも微かに水が流れる音が聞こえた。
『多分扉が何枚かあって、その向こうから聞こえてくるから大丈夫だと思う。シャワーの音』
この上の部屋か近い場所で、誰かがお風呂に入っているらしい。
ついでにリンの口調が変わったので、戦闘モードに切り変わったらしい。
これが意識しているのか無意識なのか解らないが、私もリンとの付き合いが一ヶ月近く立っているので、ちゃんと変化に気づけるようになっていた。
『じゃぁ今のうちに潜入しよう』
私はそっと床板の穴から頭を入れると、すぐにゴチンとなにかに当たった。
「あいたっ」
『カリス、しー』
『ごめん、つい……なにこれ? ベッド?』
手を伸ばして、頭にあたったものを探ってみると、ベッドの用な感じだった。
どうやら誰かの寝室において置いてあるベッドの真下に出たようだった。
私は頭をぶつけないように、そっとベッド下へ身体を滑り込ませる。
(ベッドの下にメイド服を着た女性……軽くホラーよね)
軽く自笑してベッドの下から部屋の中を確認しようとすると、後ろからリンが足をつついてくる。
『その部屋には、誰も居ないみたいだからカリス出て~狭い~』
私はその声を信じて部屋内部の確認もせず、ベッドの下から這い出た。
ランプの光がだけが灯っている薄暗い部屋。
「――――っ!?」
ガツンと後頭部を殴られたような衝撃というのはこういう事を言うのだろうか。
『カリスどうしたの?』
そこは私がよく知る部屋だった。
四畳ぐらいの部屋にベッドとクローゼット。
窓は鍵穴式になっており、窓のそばには小さなテーブルが置いてある。
テーブルの上には小さなランプが灯っている。
ベッドの上には、綺麗に折りたたまれたメイド服が一着置かれていた。
テーブルの隣にある壁の扉がお風呂。
廊下へと繋がる扉の隣には人が一人なんとか丸まって入ることが出来るようなサイズのクローゼットが置かれている。
私はこの部屋を知っていた。
忘れたくても忘れられないだろう。
最低限の家具しか置かれていない狭い、寝るためだけに用意されたような部屋。
『……カリス!』
その時、リンの焦った声が【
――カチャ
(――っ)
テーブルの前に立っている私の隣りにある扉の向こうで、何かの音が聞こえたと思ったら急に扉が開いてゆく。
私は「またこのパターンか」と思いながらも咄嗟に振り返りって、扉から出てきたタオル一枚だけ身体に撒いた少女の口を咄嗟両手で塞いだ。
「――ムグッ!?」
身体から少し湯気が出ている、少女の目が驚愕に見開かれる。
まだ少し濡れている光沢のある黒髪から、椿のようないい匂いが鼻腔をくすぐった。
「ごめん、フレンダ……私――クリスです」
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