第7話 忘れられない夏の思い出
「光輝……、光輝!」
何度も名前を呼びかけられ、光輝は目を覚ました。白い光に包まれた病院の天井だ。白いカーテンで四方を囲まれた病室に光輝は寝かされていた。
「良かった……」
光輝が目を覚ましたことに気がつくと、母は安堵のため息を漏らした。どうやら光輝が目を覚ますまで、ずっとそばで看病してくれていたらしかった。
「駅のホームで倒れてたのよ。熱中症だって。あの駅は無人駅だから、探しに行かなかったらもう少しで危ないところだったって……。本当に良かった……」
「駅の、ホーム? 」
「うん、……ごめんね。光輝はただお爺ちゃんに会いに行きたかっただけだったのにね。あそこは、災害があった後悪い噂しかなくて、つい反対してしまって……」
大輝の言葉を思い出した。呪い。それで母は反対していたのか。
心配そうに光輝を覗き込む母に、光輝は一言、
「行きたいところがあるんだ」
と言った。
そこは土砂で埋まっていた。不安げな母親に見守られながら、光輝は手を動かす。やがて見かねた母親が一緒になって土をどけ始めた。それからどれくらいの時間が経っただろう。ようやく目当てのものを見つけた光輝はそれを土の中から取り上げて、母親に見せた。それは土に汚れ、酸化したおもちゃの缶詰だった。開けると、ビー玉や大輝のテスト用紙が詰め込まれていた。光輝はその一つ一つを大事そうに見つめた後、あるものに気づいた。
それは、大人用の歯ブラシだった。
疑問を浮かべる母親を他所に、光輝はいつまでもその歯ブラシを見つめていた。
少年の夏の日 藤堂 朱 @aka-tohdoh
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