第2話

 視覚的ノイズ、入部するなり彼女は集まった部員と楽器と譜面台を見てそう言ったらしい。当然、彼女は孤立した。それでも退部まで至らなかったのは、彼女が音楽の天才だったから。ただし、音楽ソロにおいてだったが。彼女と吹奏楽部との関係は当然ギクシャクしたが、なんとか交流は続いていた。丁度その頃、私は非公式に帰宅部を設立し放課後の教室を着実に私物化しつつあった。放課後の教室の占領は進み、陥落は明日にでもと考えていたある日、彼女がやってきて、ここで演奏してもいい?と聞いてきた。もちろん私は許可した、戦勝パレードのサプライズは大歓迎だった。彼女は下校時刻ギリギリまで演奏した。全て知らない曲だったが、私は鳥肌が立ち、心臓が早鐘を打った。私の知る音楽とはまるで違ったのだ。まるで、革命が起こったかのようだった。恥ずかしそうに、一礼してから去ろうとする彼女を引き止めると、缶ジュースを買ってきて渡した。

「これ、お礼。私、音楽には詳しくないから上手く言えないけど、すごかった。よかったら、明日も聞かせてよ。また、お礼用意するから。」息を切らしながら私が喋る間、彼女はずっと缶ジュースを見つめていた。私の話が終わると彼女は、じゃあ、また明日も来させてもらおうかなと言った後、缶ジュースを私に見せて、これ炭酸飲料だけど走った時に振ってないよね?と微笑んだ。私は久々に大笑いした、彼女もお腹を抱えて笑っていた。幸か不幸か、この出来事が原因で彼女は吹奏楽部との縁を完全に切った。彼女は幽霊部員になった。楽器の貸し出しは顧問が特別に許可してくれたらしい。こうして私と彼女の間に、パトロンと演奏者という奇妙な関係が生まれた。

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