第24話 澱人を倒すってのは無理なのかな
「タマナ!ほら、見てみて!」
そう言うとオトハは自分の手に刃渡り15センチ程度のシンプルな作りの短剣を出現させるのだった。
「は?待て、できるようになったのか?マジで?」
あれから二週間、来る日も来る日も仕事の合間を縫ってオトハは能力の練習をしていた。
最初は発現そのものが不安定で、望んだものを出現させるどころか、何も起きないことなどもざらにあった。
タマナはどうせ使いこなせるようにならないだろうと高を括り、それを生暖かく見守っていたが、オトハの練習は毎日飽きもせず欠かさず行われた。
ちなみに出現させたものは一定時間が経つと消えてしまうこともわかってきた。
オトハの能力は次第に発現率を上げて行き、イメージ通りとは行かぬものの遠からずといったものを出現させることができるようになっていった。
ただ発現の成功率が上がることでわかってきたこともある、それは回数の制限だ。
短剣くらいのものを6回も出現させるともう軽く頭痛がしてくるようになる。
それ以上は体調の悪化を恐れてやらなかったが、これを限界値の一歩手前と考えるようにした。
「魔法もそうだけれど、魔力の消費で消耗すると頭痛がするわ。でも魔法使いの方は魔力を付けることでより多く使用できるようになるし、慣れてくれば魔力の還元率を効率化することで省エネで同様の効果料を得ることができるようになる。これもまあ、練習あるのみなんだけれどね。」
(ナイナがそう言ってくれたのだから、この能力も使っていることで、何処だからわからないけれど能力を使う器官が鍛えられるだろうし、今の力んで何とか使っている状態から改善して、リラックスしても使用できるようになれば、消耗も抑えられるようになるだろう。)
そう信じてオトハは練習を続けた。
果たしてタマナの感心のなさとは裏腹にオトハは能力を少しずつコントロールできるようになってきて、徐々にイメージとのズレを埋めていった。
そして今日ついにイメージどおりの短剣を出現させることができるようになったのだった。
「いや~、やはりね~、私はやればできる子なのよ。見てイメージ通りの完璧な短剣!」
タマナはそれを調べたが実際に物を切るに足りる強度を持っていた。
能力のコントロールなどできるようにならず、不安定なまま、諦めると思っていただけに驚きも一入だった。
「マジでできるようになるとは……。流石に考えてなかった。」
「考えてなかったって何よ!結構頑張ってたんだからね!」
「いやいや、頑張っているのは知ってる。その努力が実ったなら良かった良かった。」
「ありがと!でも自分でもわかってるよ、この程度では身を守れるかわからないことくらい、ましてや依頼に参加できるなんて思ってないよ。でも成功体験を得た今!私はこれを応用して色んなことができるようになるのだ!」
「ああ、こうなったら素直に応援するぜ!」
それから数日間、短剣以外の色々なイメージを試した。
だが火を起こしたり、物を手を使わず動かしたりという現象にフォーカスした実験をしたところ、確かに成功はしたのだが、小規模でしか作用させることができず、その上異常に消耗が激しく、1回、2回と使うだけで力尽きてしまった。
小物を出現させる芸当共々、戦力に結び付きづらいということを薄々と自覚して、オトハは少しずつ自信を無くしていった。
「あー、まあ、何だ。この短期間に色んなことができるようになって凄いじゃねえか。それに戦い以外で考えればかなり便利な能力だと思うぜ。」
意気消沈しているオトハを見て、流石に心配になったタマナは元気づけるようにそう言ったが、オトハとしてはやはり納得がいかないようだった。
「うう、私は、また攫われたり人質に取られたときに、自分の身を守れるような、そんな感じになりたかったんだ……。」
「わかってるがそう焦んなよ。ウチの村の皆も戦えるようになるのには何年も修練を積んでるんだ。あんたの能力は確かに特殊なものだが、それでもスグに戦力になるなんて考える必要はないぜ。じっくりやるしかねえよ。むしろこの数週間でこれだけ使いこなせるようになったことを誇っていいと思うぞ。」
「でも、私、もっと強くなりたいよぉ~!」
駄々っ子のように叫ぶオトハにタマナはため息をつく。
「あー、もう!うるせえなあ、今日はダニイルのところで夕食にしよう。で、ゆっくり寝ろ!」
「うう、ダニイルさんの料理、美味しいから好き……。」
* * *
夕方になると2人はジーンを誘ってダニイルの食堂に足を運んだ。
店に入ると独特の香料と肉や魚の焼ける匂いが香ばしく食欲をそそる。
ダニイルの奥さんが3人をテーブルに案内したが、店内はそれで満席となる程繁盛していた。
「こんばんは!すごいお客さんが沢山入ってるんですね!」
「今日は何だか特別にお客さんが多いわ。皆お料理をサボりたい日なのかもしれないわね。」
3人は飲み物や料理を注文すると店内を見回した。
少し離れた席にナイナやシギズムンドも見える。
軽く手を振ると向こうも挨拶を返してくれた。
「あの2人付き合ってるのかしら、ドニウスに行った時もよく一緒にいたし。」
「そう言うのは野暮ってもんだろ。まあ付き合ってねえんだけど、微妙な距離感でもどかしい状態って感じだな。」
「何それ!?詳しく聞きたい!!」
「馬鹿!言うかよ!2人に直接聞いてみりゃ良いだろ。」
「そんなことできたら苦労しないよ!でも良いなぁ、大人の恋愛。」
「俺もオトハお姉さんへの気持ちは、負けてないから。」
ジーンは頬を赤らめつつ、勇気を振り絞ってそう言うのだが、オトハはニコリと笑って彼の頭を撫でるばかりでまるで暖簾に腕押しと行ったような風情だった。
タマナはそんなジーンを憐れむように料理を皿に取り分けてあげるのだった。
「ドニウスと言えば、また行きたいな。今度は晴れている王都を歩いてみたいけれど。」
「そうなるとかなりの長期滞在になるな、霧が出てないと行き来ができないからな。」
「ねえ、晴れの日に向こうに行く方法はないの?」
「ない、澱人がいる限りはあのラインを超えること自体が非常に危険なんだ。」
オトハは残念そうにサングリアを飲む。
ラズベリーや梨のような味がして美味しい。
タマナはグラッパのような酒をちびちびと飲んでいる。
そうしている間に料理が次々に運ばれて来てテーブルはいっぱいになった。
「ねえ、タマナ、あのさ、澱人を倒すってのは無理なのかな。」
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