第9話 もう一つの話ってなんだい?

「それでもう一つの話ってなんだい?」


 タマナはタバコをケースからもう一本出して火を点けた。

吐いた煙がゆらりを部屋に漂うと程なくかき消える。


「旅人が5人、今夜この村に来る。」


「ほう!それは歓迎しないとね。」


「歓迎、してえんだけどよ、問題はこいつらが盗賊行為を企てているということなんだよな。」


「盗賊?なんだってまたそんなことを企んでいるんだね。しかもよりによってこの村を。」


「こいつら遠方の都市からドニウスへの旅をしているようなんだが、この辺の地域に発生した澱人を避けて通っていたら蛇行に次ぐ蛇行をすることになって、予想以上に旅路が長引いちまったのよ。それで路銀も食料も底を尽きたようだ。しかも今の時期、ここからドニウスに通じる街道が閉じられている以上、道を急ぐこともできずってな。そんなこんなでこの村を頼る他ない状況に置かれているようだぜ。」


 シギズムンドは眼鏡を直すとやれやれといったジェスチャーをした。


「頼る、ね。実際頭下げて頼ってくれればこちらとしては少しばかりの食料と泊まる場所くらいはいくらでも融通できるというのに……。」


「そんな風には頭が回んねえんだろうよ、それだけ切羽詰まって追い詰められているってことだ。兎に角連中は生き延びるために奪うしかないと考えていやがる。迷惑なことにな。」


「厄介だねそれは、取り押さえる他ないか。今夜ってのはいつ何処からというのはわかるかい?」


「ミハイルの仕立て屋の坂の上から降りてくるようだ。時間はまだ正確には決めていねえみたいだな。半分以上行き当たりばったりの計画なんだよ。まあ連中が動いたら俺が合図を出すとかでもいいけどよ。」


「いいね、それでいこう。急ぎ村人にその旨を通達しよう。それと10人ほど取り押さえに協力してくれる希望者を募ってみるよ。それで参加者10名と僕、タマナはダニイルの食堂でご飯でも食べながら待とうじゃないか。」


「了解だぜ。あと言い忘れていたが、連中の殆どはてんで素人だし、盗賊まがいと言っても計画の主だった内容はコソ泥なんだけどな、一人だけ剣の心得のあるやつがいる。こいつは要注意だ。」


「フム……。万全を期してなるべく手練で固めたいね。」


「それ、俺も参加を希望するよ。」


 と話を聞いていたジーンが参加表明をする。


「お、それはイイね、キミがいてくれたら安心だよ。」


 それを聞いてびっくりしたオトハが思わず口を挟む。


「え!?いや、危なくないんですか!?ジーンはまだ子供ですよ!相手は剣を使うって……。」


「ああ、いや、キミは知らないかもしれないけれど、ジーンはこう見えて鍛えていてね、非常に強いんだよ。我が村でも期待の新人、育ち盛り!相手に遅れを取ることはまずないと思うよ。それに僕や他の大人も付いているしね。僕もこう見えて結構やるんだよ、アチョーッってね。」


 このナードな雰囲気でひょろひょろの猫背な人と、幼い少年が強いなどとは俄かには信じがたいが、シギズムンドは真面目な話をしているときに嘘をつくような人には見えない。


「まあ、シギズムンドやジーンに限らず、この村の人間は鍛えていて強いんだよ。ちょっとワケありでな。だから安心していい。万が一怪我をした場合も俺のところで作っている傷薬もあるからよ。」


「あの、今夜のそれ、私も行って良いですか?」


「は?ダメに決まってんだろ。どう考えても足手まといだ。」


「ジーンのことが心配ですし、それに私も皆さんの恩に報いたいんです、食堂でお手伝いするとか、盗人を取り押さえる時にふん縛るお手伝いとかできると思うんです。」


「うーん、僕もそうだけれど、タマナも恩返しなんてしなくても良いと思ってるよ。僕らはお人好し集団だから、そう言うのは良いんだ。それに今回の件は帯刀するものもいると言っているのだし危険だよ。」


 そう言われてもオトハは尚も食い下がる。


「そう言う危険のあるところにジーンを参加させるんですよね?それなのに大人の私が参加できないのはおかしいと思う!」


「実力の差だ、ジーンは戦えるがあんたはそうじゃねえだろ。」


「私だってその魔法みたいな力を使えば戦える!」


「使い方わかってんのか?それにそいつは場合によっちゃ命の危険が伴うリスクの高いもんだ。むしろ使うんじゃあねえ!」


「もう!それならここで巨大な文鎮をタマナの頭の上に降らせるよ!それが嫌だったら承諾して!」


「おめえは恩を返してえのか、俺をぶっ殺してえのかどっちなんだよ……。ああ、もうわーった、わーったよ。そのかわり絶対に無理をしないことと、その力を使わないことを約束しろ。シギズムンドもいいよな、こいつ一人くらい守れるだろ?」


「うーん、僕は反対だけれど、タマナがそう判断するならいいよ。できる限り傷つかないように守るように気をつけるよ。」


 オトハの無茶苦茶な言い分に折れた二人は渋々参加を承諾させられ、ひどく疲れた様子をしている。

彼女の方はまるで論破してやったかのように清々しそうな表情でお菓子をつまんでいる。


「俺がオトハお姉さんを守るから安心して。」


 そう言うジーンを見てオトハは少し胸をときめかせた。


「ありがとう!私もあなたを守るよ、ジーン。」


「やれやれ、しょうがねえなあこいつら……。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る