第十三話
車に乗ると、来る時と同じ席に座った。
「みんなこの後どうすんの? なんならショッピングモールまで送ろうか?」
礼深さんのお父さんが聞いてきた。まだ時間も早いのでどうしようかと思っていると栗城さんがすぐに、お願いしまず! と答えた。続けて、礼深も一緒に行こうよ、と言ってみんなで行くことになった。
ショッピングモールの駐車場に着くと、礼深さんのお父さんにお礼を言って降りた。車が走っていくとみんなで中に入った。
「とりあえずどっかでお昼食べようか」
みんな頷いて、栗城さんがお店を探し出した。
上階にあるレストランに決めて食事にすると、改めて栗城さんが礼深さんを紹介してくれた。私がモデルをしていたころの話にもなって、礼深さんもその雑誌が好きだと言ってくれた。吾妻さんも実はファッションが好きだということをカミングアウトして、思いのほか盛り上がってしまって、一時間以上もお喋りしていた。
レストランを出ると、これからどうしようとなった。
「なにか見たいものある?」
「なんだろう。映画とか見に行く?」
一昔前に流行った恋愛映画のリバイバル上映が、確か今週から始まったはずだ。
「映画! いいね! 二人はどう?」
二人ともいいよと言ってくれて、最上階の映画館に向かう。
映画館の前に着くと目当ての恋愛映画を勧めてみる。栗城さんと礼深さんは懐かしがっていたけど、吾妻さんは初めて知ったと言っていた。四人で横一列にチケットを買って中に入る。
開演ギリギリだったのですぐに始まった。映画なんて何年振りだろう。昔の映画だということもあり、なんだか懐かしい気持ちでスクリーンを見つめる。
みんなには言わなかったけど、実はこの映画は大好きで今までに何回も見ている。ヒロインの子が本当に一途で初々しい。ラストの告白シーンは一字一句違わず暗唱できるほどに覚えている。こんなすごい作品に憧れて芸能界に入って、こんな青春に憧れて高校に入学した。
展開はすべて覚えているけど、それでもドキドキして、最後は感動してちょっと泣いた。
栗城さんと礼深さんはもちろん、吾妻さんも初めて見たけどすごくよかったと言ってくれて、私はこの映画に何にも関係ないのになんだか嬉しかった。好きを共有できて、自分を受け入れてくれた気がした。
映画館を出ると下の階で洋服を見る。吾妻さんに似合う服をみんなで選んでは、恥ずかしがって拒否されるというのを繰り返した。私もできるだけ吾妻さんの好みに合うようにコーディネートして服を探す。何回かの提案でやっと試着をしてくれることになった。
試着室から出てきた吾妻さんは、やっぱり恥ずかしいと言っていたけど、意外とまんざらでもないという表情に見えた。
「やっぱり西堂さんファッションセンスあるよ」
吾妻さんが試着室に戻ると、栗城さんに褒められた。
「そうかな。そんなことないよ」
「いやいや、絶対センスいいよ。やっぱり私、西堂さんはモデル向いてると思うな」
「向いてるかは分かんないけど、嬉しい。ありがとう」
「まぁ、今日はとりあえず保留かな」
吾妻さんが試着室から出てきて、紅潮した顔でそう言った。
その後もみんなで店内を見て回った。栗城さんは秋物のロングスカートを買うか、すごく悩んでいて、私は今度吾妻さんに写真を撮ってもらう時の服を探した。その間に礼深さんは何着かのワンピースを試着していた。
急遽来たのもあり、お金をあまり持っていなくて、結局みんな何も買わずに店を出る。
そんな調子で雑貨店やコスメ店などをハシゴして回った。
そのうち疲れてきてみんなで喫茶店に入った。さっき見た映画の話やファッションの話をしていると、またすぐに時間が経ってしまって、気付いたら帰らなきゃいけない時間になっていた。
「じゃあまたね、礼深」
ショッピングモールを出ると栗城さんがそう言って、続いて私たちもまたねと言って礼深さんと別れた。三人で礼深さんが向かったのと反対の道に歩いて行く
駅に着くと、改札を抜けてホームで電車を待つ。空はもう暗くなりかけていた。
「今日は楽しかったね」
「うん、すごく楽しかった」
私が答えて吾妻さんも同意する。
「それにしても、まさか宇津野くんと同じ話を今日も聞くとは思わなかったなぁ」
栗城さんが思い出したように呟く。
「うん、宇宙人なんて信じたくないけど、さすがに嘘吐いてたとは思えないし、ちょっとこわいね」
私は素直にそう言った。
「ね。本当にいるのかな……」
「宇宙人かはまだ分からないと思うよ」
吾妻さんが口を開く。
「ただ、今回のことに何かしら関係のある人なのかもしれない」
ホームに電車が滑り込んでくる。三人で乗ると、横に並んで座った。
「宇津野くんの話も、あまりバカにできなくなっちゃったね」
苦笑いしながら栗城さんが言った。
「アタシは、宇津野くんにも言って一緒に探すのもありかもしれないと思う。やっぱり何かしら関係ありそうだし」
そうだねと返すと、電車が走り出した。
みんな疲れてしまって、電車が動き出してからは何も喋らないで、うとうとしていた。
私たちの街が見えてきたころに目を覚ますと、横に座っている栗城さんが気付いて話しかけてくる。
「ねぇ、西堂さん。西堂さんはどうなの? 恋の方は」
「え? いや、なにもないよ」
「でも西堂さんも好きなんでしょ。空木のこと」
胸がドキッと高鳴るのをハッキリ感じた。
「私が協力してなんて言ったから遠慮してるなら、もういいよ。気にしなくて」
どういう意味かと返事に困っていると、栗城さんがクスッと笑った。
「私フラれたの。空木に」
「え?」
そんなことを言われた驚きもあるけど、心の奥に喜びや安堵の感情もあって、そのことに対する驚きというか弁明みたいなもので、つい大きな声を出してしまった。
「もう、そんな大きな声出したら吾妻さん起きちゃうよ」
「ごめん、でも全然知らなくて。いつ告白したの?」
「ん~、まぁ少し前にね」
「そっかぁ」
私の知らないうちにそんなに進んでたんだ。空木なんにも話してくれなかったな。そう考えてみてから、相談されたとしてもその方が困るかと思った。
「だから、私のことは気にしなくていいよ。協力してなんて言われて困ったよね。ごめんね」
「いや……べつに私はそんなんじゃ」
「それは嘘。西堂さん見てればわかるよ。意外と隠せてないよ西堂さん」
そう言って笑顔を見せてくる。その笑顔に押されて、私はもう反論することをやめた。
最寄り駅が見えてきたので吾妻さんを起こす。電車のドアが開いてホームに降りると、暖かい風に乗って、ほんのりと海のニオイがした。外はもう真っ暗で、空には星がキラキラと輝いていた。
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