4

 一月五日、日曜日。色々あった冬休みの最終日。

 始業式を明日に控えたこの日、剣道部は稽古始めをすることになっていた。僕が道場に到着すると、部長たちはすでにいた。休み前より少し大人びて見えるのは気のせいだろうか。


 新年の挨拶もそこそこにお互いの冬休みでの出来事を話し合った。僕はずっと寝正月だったと誤魔化した。部長はアカリ先輩と二人で能登の方へ日帰り旅行に行ったことを教えてくれた。そしてクリスマス前に付き合い始めたと言うことも。

「まぁそういうことだけどさ、気にせず今まで通りに接してくれ。隠すつもりは無かったんだけど、言うのが遅れてスマンかったな」

「もうとっくに知ってますよ。というかこの学校の大半は知ってるでしょうね」

「まじで? 何でそんなことになってんだ」

「この学校の恋愛情報網を甘く見ない方がいいですよ」

 アカリ先輩はといえば遠慮がちに微笑んでいた。やっぱり僕に対して少し負い目を感じるところがあるのかもしれない。そういう人なのだ。だからこそ僕はこの人に付いてこれた。


 僕はアカリ先輩に向き直り、姿勢を正して頭を下げた。

「先輩、今年もビシバシお願いします」

 その一言で十分だった。アカリ先輩は吹っ切れたように、『女』の顔から『女武将』、あるいは『メスゴリ』の顔へと変貌した。

「ああ、せいぜい覚悟しておけよ」

 そして今年最初の剣道部が始まった。


 まずはアカリ人形についてのお説教から始まった。アカリ先輩が怒鳴り、僕が委縮し、部長が時々茶々を入れた。そしていつものように稽古が始まり、夕方になり、これまたいつものように僕はアカリ先輩に勝負を挑んだ。

 もはや勝利することに以前のような目的は無い。部長にならば全面的にアカリ先輩を任せられる。だから部活が嫌になったのいつ辞めても何ら問題も無いだろう。

 それでも僕は竹刀を握る。

 三人でいるこの瞬間こそが僕の楽しみになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでも加賀の獅子は舞う 中田 斑 @madara_nakata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る