第3話
HR前なのでそう時間はとれないが、やることはシンプルだ。
「これ、お前だな」
突き出したのは、怪文書と化した便箋。
「そ、それ……なんで……」
途端に顔を真っ赤にする追坂は、まるで信じられないとばかりに雪実を見つめる。
「一応言っておくが、別に姉貴宛てのやつを覗いた訳じゃない。……いやまあ見たけど、そうじゃなくてな」
中身が入れ替わっていた、とその証拠を示すと、追坂は口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「それはどうでもよくてな、」
「ど、どどど、」
「どうでもいい。問題は、お前は本気か? 本気でうちの姉貴のことが好きなのか?」
「す――、」
唇がぷるぷると震え出す。頬は真っ赤に紅潮し、目元には涙まで浮かんでいた。なんだか罪悪感を覚える。
「好きなら、俺が手伝ってやってもいい」
「え……?」
「つまり、オレがお前の恋愛をサポートする。姉貴の攻略を手伝ってやるんだ」
それなら、雪実の信条に反せず、追坂の気持ちを弄ぶこともなく、むしろ雪実は恋愛能力を証明出来て、追坂は好きな人と結ばれる――
「ウィンウィンの関係というやつだ」
「う、うぃんうぃん……?」
「こっちの話だ。……それで、どうなんだ。弟のオレが味方に付けば最強だぞ」
提案に、追坂は迷うそぶりを見せた。
おおかた、手紙を書いて下駄箱に入れるまではいっときの感情と勢いで行ったのだろうが、いったん冷静になると現実的じゃないことに気付いたのだろう。学生の恋愛などそんなもの。
ここで畳みかける。
「お前、なんで今、うちの姉に告ろうと思ったんだ」
「え……、そ、それは……。この前、進路調査があったから……」
「先のことを考えて、三年である姉貴と会える時間は残り少ないと思ったわけだ。それで勢いで書いたんだな。でもな、普通に考えても手紙はNGだ」
「え、えぬじ……!?」
「姉貴は有名人だが、お前はどうだ? 認知されてるか? 自分の身になってみろよ、いきなり知らないやつに呼び出されて『好きです』とか言われてみ? 引くだろ」
言うと、追坂は愕然とした。
「段階を踏むのが必要なんだよ。それを、オレがサポートしてやる」
雪実個人としてはこういう打算的なかかわりは信条に反するが――所詮、学生の恋愛だ。それも同性同士。追坂だって本気じゃないだろう。
「どうだ? 姉貴との最後の一年、良い思い出にしたくないか?」
予鈴が鳴る――雪実がちらりと携帯で時間を確認し、顔を上げると。
「お、お願いします……っ」
決意を固めた追坂が、小さくそう叫んだ。
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