6.知能の多様性とIQ利用批判(1940年代~)
6.知能の多様性とIQ利用批判(1940年代~)
(1)複数領域で捉える
1939年、ルーマニア出身でアメリカ陸軍との心理テストの開発などをしていたウェクスラー(David Wechsler1896-1981)が、知能を単一スコアで捉えるのではなく複数の領域(言語性と動作性)で捉える「ウェクスラー・ベルビュー知能テスト」を開発しました。そこで比率IQの不合理性も指摘されます。
個人内の差(個人の得意・不得意)を捉えようとしたことが、大きな特徴であり転換点となります。例でも示したWAISに代表されるウェクスラー式です。
ウェクスラー式は知能検査の主流となり、他にも様々な知能検査が開発され、ビネー式も改良されていきます。その多くは、複数の尺度で能力を示し、それを解釈することで個々人の支援に役立てる、という理念を持ちます。ビネーの理念と通ずるものがありますね。
(2)IQ単純利用の是正、今も残る印象
しかし、社会的にはIQを単純に捉えて選別に用いる考え方がまだまだ続きます。
法律や社会制度の面でIQの利用は、1971年にアメリカ連邦最高裁判所が、入社試験を職種と関連ない一般的なIQテストに依存することは差別的な慣行であり禁止する(1964年の公民権法違反:Griggs v. Duke Power Co., 401 U.S. 424 (1971) )と判決が出たことで、徐々に変わっていきます。
ここから、IQテストの過剰な利用が抑制されてきます。
本文で述べてきた歴史は、知能検査そしてIQの理論の発展を中心とした流れに過ぎません。ギフテッド教育やMENSA(1946年設立)に代表される高IQ団体、メディアにおけるIQの扱いなど、現在のIQの社会的地位を築くまでに影響したものは他にもあるでしょう。
IQの利用の中には、もはや知能検査から逸脱し、IQが独り歩きしている場合も多いです。
(3)全体のまとめ
知能検査は適切に利用すれば、発達や知的活動に対する困難を抱える個々人にとって、一つの手がかりになりえます。しかし、絶対的なものではありません。
色々なテストもあること、時代で改訂もされていること、IQという数値も1テストの結果の相対的な位置を示すに過ぎないこと、これらは広く知られるべきことでしょう。
IQは歴史上、絶対的なものとして利用された経緯もあります。人は能力を単純に捉えたがる、そして比較したがるものですから、必然の流れとも言えるでしょう。今も沢山ある過度な信仰や安易な利用に振り回されないようしなければなりません。
(本文おわり。次回に参考文献・URLを記載。)
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