5.数値「IQ」への単純化と利用 ~選抜への利用、優生思想、偉人ランキング~(1910年代~)

(1)IQの登場と優生思想

 最も知能検査を受容し普及させたのがアメリカです。1916年にターマン(Lewis Terman 1877-1956)により、ビネーの知能検査をアメリカ用に標準化した「スタンフォード・ビネー式知能検査」が開発されます。

 ここで、1912人にドイツの心理学者シュテルン(William Stern1871-1938)を参考に指標IQを導入します。(ただし、シュテルン自身は知能を分類する唯一の方法ではない、としています。)IQという数値の登場です。


 そして、「知能は一因子で成り立ち生得的に決定し不変である」という立場の人々により、IQは軍隊や学校、入社試験での利用が推進されていきます。

 また、当時盛んだった優生学(優れた遺伝子を残し、劣った遺伝子を排することが人類の改善になり正しいという考え方)において根拠づけに利用されました。例えば、1921年の移民制限法において移民の数が制限されたことで、知能検査で点数の低い者は移民として認めない措置が取られました。

 知能検査が排除のための道具になってしまったのです。


(2)IQランキングの原点?

 人々をIQでランキング化する典型である「偉人ランキング」もこの時代に生まれました。

 ターマンの指導を受けていたコックス(Catherine Cox 1890-1994)は、1450年から1850年に生きた天才300人を、1500の伝記から人生の成果や子ども期の能力を推定し、スタンフォード・ビネー式によるIQでランク付けしました(Cox 1926)。「Cox IQ」で調べると、この文献でのランキングが出てきます。

 この手法には大変疑問はあるのですが、少なくともIQテストを実施したものではない、のは確かです。


 現在様々な場所で書かれている偉人のIQは、必ずしもコックスに準じているわけではありませんが、Cox IQにおいて1位のゲーテIQ210、2位のライプニッツIQ205、5位のパスカルIQ195、9位のガリレオIQ185あたりは、多くのIQランキングにおいてコックス同様の数値が使われており、コックスが原典(かつ原点)ではないかと思います。

 一方、4位のトマス・ウルジーIQ200なんかは、一般的な知名度のせいか他のランキングではあまり使われません。キャッチーさが足りなかったのでしょうか。

 ちなみにダ・ヴィンチは、Cox IQでは27位でIQ180なのですが、一般にはもう少し高い値が使われますね。天才の代名詞というイメージに合うように上がったのでしょうか。(どこで尾ひれがついたかは、中々知りようがないですからね…。)


 これらに1850年以降の人々で天才と名高いニコラ・テスラやアインシュタイン、そして実際にIQテストで高い比率IQを出したマリリン・ボス・サバント(1986年ギネスブックがIQ228を世界一と認定した人物。しかし、89年に「世界一IQの高い人物」カテゴリーそのものが意味なしとして消滅。)などをお好みに応じて加えると、オリジナル歴代IQランキングの完成です!しかし、完成したところで、大した意味はありません。

 現実に、時代も測定法もごちゃ混ぜ、中には出所不明なものもあるランキングが流布しています。その原点は、およそ100年前の研究にあったのです。


(6.知能の多様性とIQ利用批判(1940年代~)につづく)

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