4.IQの歴史① 発達診断のための知能検査の開発 ビネー(1900年代~)

 1800年代後半には先進国で初等教育(小学校)制度が確立する中、知的障害児への対応が課題となっていました。フランスの文部当局がその対策を考える委員に選んだ1人、心理学者のビネー(Alfred Binet 1857-1911)は、精神科医シモン(Théodore Simon 1872-1961)と協力し、1905年世界初の知能検査が開発されます。知能検査は、現在でいう特別支援教育のために作られたのです。

 当時、知的障害の判定基準はありませんでした。知能検査の開発は、主観ではなく科学的に基準と診断方法を確立するという実用的な目的で行われました。


 最初の知能検査には、IQという数値はありませんでした。ビネー自身は、知能を一元化できると考えず、「一つの実態として万一具象化されると、助けを必要とする子どもを特定する指針としてよりも、むしろ消すことのできないレッテルとして悪用され利用されるということを非常に恐れた」(Gould 1996=訳2008)とされています。(その後の展開は、ビネーの懸念通りになってしまうわけですが…。)


 ビネーは問題の改良と妥当性の検証を重ね、1908年と11年に改訂版の検査を発表しますが、志半ばで亡くなります。しかし、知能検査とその年齢基準の基礎を確立しました。ビネーの知能検査はフランス国内では評価されませんでしたが、急速に各国に普及します。知能検査は、開発者のもとを離れて展開され、変質していきます。


(5.数値「IQ」への単純化と利用 ~選抜への利用、優生思想、偉人ランキング~(1910年代~)につづく)

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