第11話


「返信、無しかい?」

 Dがケイスケに言った。

 ギターを弾いている指を止めて、携帯を見る。

「無いね」

 首を振った。

「脈無し、かな?」

 Dの言葉に、ふぅと重いため息をケイスケはついた。

「どうかな?俺はそうは思わないけどね」

「じゃ、どういう目算かい?」

 ケイスケが携帯を置いてギターを手にして弾き始めた。ゆっくりとリフを刻みながら、ぽつりと言った。

「彼女、自分の半身を取り戻したい・・って俺に言ってたのさ、それが出来なければ先に進めないって」

「半身?」

「そう、半身。自分の千切れた半身」

 Dが肩を揺らしてドラムステックで空を叩くようにしてからピタリとケイスケの前で止めた。

「どういう意味だい?」

 ケイスケが目を細める。

「自分の音楽の原点ともいうべき半身を取り戻したいってことさ」

「難しいこと言うなぁ、分かり易く言えよ」

 Dが頭を掻く。

「まぁつまり故郷に残してきた記憶と言うのか、そうした音楽の作曲のイマジネーションの原点を取り戻したいってことさ。そうすれば自分は次に行けるだろうって俺に言ってたよ」

 弦を鳴らす音が高く響いた。

「じゃ、子供の頃の初恋とかってやつかい、そんな甘い思い出とかなんとやらを見つめたいってことか」

 Dが揶揄するように笑う。

「そんなことしたら、昔の初恋の人に出会って、ケイスケ、お前の恋なんて消えちまうぜ」

 ふん、とケイスケが鼻で笑った。

「D、子供じゃないんだぜ。俺達は大人だ。大人には現実に沿うような恋が必要なのさ。変なこと言うんじゃないよ」

 ケイスケが目でDを見る。

「そうしなけりゃ、先に進めないのさ。恋も音楽も」

 ヒューとDが口笛を鳴らした。

「そうかい、じゃさ、恋焦がれるケイスケの為に一曲一緒に演奏しようじゃないか」

「何をするんだい」

 ケイスケがギターを抱えて言う。

「そうだな。ガンズ&ローゼス、何かどうだい?『SWEET CHⅠLD OF MIND』なんかどうだい?子供の頃の甘い思い出ってやつさ」

 Dの言葉にケイスケは頷くと、ゆっくりと曲を弾き始めた。

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