第10話
東京へ向かう最後の日に律子は、バイオリンを持たずに白い砂浜に立った。
夏休みの朝だった。
砂浜に立っていると遠くからこちらに向かう影があった。
目を凝らすと彼だった。
釣竿を肩にしてこちらに歩いてきて、律子の数歩手前でとまった。
彼は黒い目で律子を暫く見ていた。律子もまた潮風に吹かれ、黒い髪が流れるままに立っていた。
二人は暫く無言で向き合ったが、やがて律子が言った。
「何?青山君、また魚とか投げるつもり?」
彼は首を振った。すると律子の前で手を開いた。開くとそこに小さく磨かれた青い石があった。
「何・・これ」
律子が言うのと同時に彼はそれを律子の手に握らせた。
「爺ちゃんの工房で作った。ターコイズって言う石らしい」
律子は、思いもよらない言葉に首を傾げた。
「爺ちゃんがさ、これを渡して来いって言うものだからさ」
「へー・・」
律子はそれを空に透かした。
彼は律子に向かって言った。
「黒田、あのさ・・・元気でいれば、また会える。だから元気で」
そう言うや、彼は後ろを振り返り走っていった。
「青山君・・ちょっと!ねぇ!」
そう言って律子は流れる髪を手で押さえて、その姿を見ていた。
(そう、あのターコイズ・・)
律子は携帯を見た。
二人の間で律子の携帯電話のストラップが揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます