第5話
律子はルームキーをホテルのスタッフに渡すとチェックアウトした。
スタッフが律子の車を通りに出してくれていてキーを受け取ると車に乗り込んだ。
乗り込むと空を見上げた。
窓からのぞく空は青く澄み渡っていた。
その空を飛行機が横切ってゆく。
(朝一番に都会へ向かう飛行機、これはどこへ行くのかしら。東京、それとも大阪・・?)
目を細めて飛行機の行く先を追いながら律子はエンジンをかけた。
「良い旅行を」
スタッフのさよならの挨拶に律子は小さく頷いて答えた。
車が進みだすと車内に眩しい朝陽が差し込んでくる。まだ朝が早いため通りを行く車は少ない。
流れていく風景の中に標識が見えた。
ちらりと視線を送る。
(故郷まで40キロ先か・・・、一時間ぐらいかな)
そう思った時、携帯が鳴った。小さなターコイズ石のストラップが着信音に合わせる様に震え、車内に響く。
律子はその着信音で誰が電話をかけてきたのか分かった。
(ケイスケだわ)
ロックバンド“LOOP STARS”のギタリストからだった。
一瞬、車を停めて電話にでようかと思ったが止めた。
ケイスケには今回のオフをどのように過ごすかについては何も言っていない。おそらく東京の自宅に居ると思って電話をかけてきたのだろう。
ミラノから戻ってきたら是非話がしたいことがあると律子は聞いていた。
何となくだがその意味が律子には分かった。
(電話には出られないわ。だってまだ何も答えを用意してないのだから)
数回着信音が響くとやがて音が止まった。
(嫌いではないのよ、ケイスケ。だけど今はごめんね)
律子は窓を開けると風を入れた。
潮を含んだ風が律子の長い髪を靡かせた。
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