第21話 強襲!四天王!(イケメン)

 ツネヒコ達、灰色の琥珀団は奪った帝国の基地を捨て、更に奥地へと進軍する。占領した前線基地は、後続の王国軍に任せる。彼らの到着を待ってから、ツネヒコは出発した。


「チコリ、それ持っていくのかよ」


 ランドドラゴンと機械馬車の群れ。いつの間にかドワーフ特製の機械馬車が増えていた。五体で一つ、巨大な積み荷を牽引している。それは三つもある。ドワーフが基地防衛に用いた大砲だ。


「当然であります! これの火力はお墨付きであります!」


 ツネヒコと同じ、先頭馬車に乗るチコリは、小さな胸を反らして得意げだ。

 確かに、直近の戦いでは大いに役に立った。


「使いづらそうだが、次の戦いでも期待しているよ」

「ところで、次の目的地はどこであります?」


 ツネヒコは前線基地から奪った、帝国の地図を広げた。国土の広さは王国とあまり変わりない。要所の各拠点は数多く、目眩がした。直角に進めば四拠点ほどで、帝国の城にまで到達するが、地形などを考慮すると難しいだろう。

 近場から徐々に進むしかない。ここから北に数キロ行った先、大きいだろう街を守るための砦がある。


「ここだ、ヘイスティングス砦。ここから前線基地に援軍を飛ばしてきたはず。なら兵も減っている、落とすべきだ」

「大変そう……?」


 ソフィーがツネヒコの背中に触れながら聞いて来た。


「心配ないよ、俺達なら勝てる」

「ソフィー、気にしないでも大丈夫よ。あとで美味しい料理をお願いね」


 エジンコートはソフィーの肩を叩いた。ソフィーの表情も少し明るくなる。


「あはは、エジンコートは食い物のことばっかだね」


 馬車の群れが起こす足音に、川のせせらぎが混ざった。荒野の殺風景な道筋だが、水は綺麗な青色だ。


「なにか嫌な風の匂いがしますわ……」


 シムが馬車の外を見て、つぶやいた。彼女の金髪が風になびく。その視線の先、黒い影が見えた。

 蹄の音がして、向かってくる。


「なんだあれは、馬か!?」


 ツネヒコは見た。灰色の琥珀団の一団に、向かってくるものがいる。それは単独、馬のような四本脚。人が乗っている、いや人の上半身が馬の下半身と繋がっている。しかも人の部分は裸だ。


「我、騎兵の極点、ブエル! 人馬もろとも踏み潰そう!」


 叫びは美声の美少年。甘いマスクをしているが、人馬一体のモンスターだ。彼は巨大な槍を突き立てる。大砲を運ぶ機械馬車の一台が貫かれ、粉々に砕かれた。バランスを崩した荷台が脱輪して倒れる。中身の大砲が地面に転がり、轟音と土煙を立てて見えなくなった。


「あああああ! ワシらの芸術品がああああ! で、ありますううう!」


 チコリが先頭馬車から飛び出そうとするのを、慌てて引き留める。


「ばかばか! 敵だ! 荷物は放っておいて あのケンタウルスを止めろ! 」

「りょ、了解であります! ツネヒコ」


 チコリは魔銃を取り出して、構える。魔弾が放たれた、直撃コース。モンスターは、真正面から来た銃弾を槍で弾いた。美青年の顔は、フっと笑った。


「ああああ! 腹立つでありますうう!」


 チコリは狭い馬車内で、地団太を踏んだ。ツネヒコは慌てて彼女をなだめる。


「落ち着け、落ちるぞ!」



 ブエル、そう名乗った魔物は格が違うように思える。荷台の無い馬だから、奴のほうが早いだろう。奴は馬車から見て、左側に並走して追いついてくる。まるで幅寄せする車のように、後続の馬車に近づいていた。馬車軍の右側には、大きな川がある。

 ハっと、ツネヒコは気付いた。サイドからの攻撃に逃げ場がない。叫ぶがもう遅い。


「みんな、気を付けろ! 落とされるぞ!」


 ブエルはその強靭な馬の下半身で、馬車に体当たりする。ツネヒコの仲間が入ったまま、馬車は川に落ちていく。

 槍の一撃ならツネヒコの【決闘隔離魔法】で守ることが出来る。しかし、落とされるならバリアなど役に立たない。敵はこっちの手の内を理解している。


「ふははは! 我は極点! 我は極点! トカゲもどきとは身体の出来が違うのだよ!」


 ブエルは次々と、馬車に体当たりをかましていく。まるで暴走車だ。ガードレールの無い、馬車は落ちていくしかなかった。

 余りの早さに脱出もままならず、十数台ある灰色の琥珀団の馬車は、ツネヒコ達の乗る一台になった。


「我はブエル! ツネヒコと言ったな、貴様の首を貰おう!」 


 ツネヒコは間一髪、飛び出すことに成功した。並走するブエルに向けて、抜いた魔剣を放つ。


「てめぇのが先だ!」

「ぐぬぅう!」


 槍の刃先で受け止められた。キィンと金属の鳴る音がする。


「威風残光! シム! お前も来い!」


 ツネヒコは地面に着地すると同時に、走りだした。脚力強化スキル。馬よりも早いスピード。ブエルからの返しの刃を回避する。


「おのれ、小癪な!」


 歯噛みするブエルに向けて、高速の刃が掠めた。再び、ブエルは槍で受け止める。


「ひとーつ! “威”を示すわ緑の羽――」


 シムの刃だ。彼女から奪ったスキルを、彼女自身にこの前返した。高速で馬車から飛び出していた。


「ふたーつ! “風”をたなびかせては回る雲流れ――」


 シムの槍がブエルの周りを、飛び回るように刻んでいく。奴は防戦一方だ。


「みーつ! “残”る血の匂いを吹き荒れる――」


 シムの攻撃が、ブエルの足を斬り裂いた。血が煙となって、風に乗っていく。


「よーっつ! “光”の如き精霊槍!」


 シムは弾けた。光速になった彼女は勢いよく跳躍する。顔を必死に守るように、縮こまったブエルは、彼女が今どこにいるのか気付いていない。


「威風残光! それがワタクシとツネヒコのスキルですわ!」


 スピードと重力を乗せた落下攻撃。当たればいくら悪魔と呼ばれるモンスターであろうともひとたまりがない。首を落とせる。


「我は極点! 我は極点! 我の顔は誰にも汚させぬぞ!」


 ブエルはカッと目を見開いた。天に向けて槍を突き出す。シムの刃先とブエルの刃先がかち合った。奴の馬の下半身は地面、ブエルは踏ん張っていた。力が込められる地上の方が有利か。

 シムの身体が弾かれる。木の葉のように自由落下するシムを、ブエルは追いかけて、槍を持っていない方の腕で殴った。


「きゃあああ!」


 腹を殴られたシムは吹き飛び、横を走る馬車にぶち当たった。エジンコート、チコリ、ソフィーを乗せたまま、川に落ちていく。


「しまった! ソフィー」


 ツネヒコは走り出す。砕ける馬車と共に、川に投げ出されるソフィーは目を閉じていた。気絶したのだろう。

 川に落ちた仲間達は、生還するとツネヒコは信じていた。しかし、ソフィーが落ちると、ツネヒコの心は曇った。もし気絶したままなら溺れてしまう。不安が希望的観測を塗り潰していく。

 手負いの敵に背中を見せてしまった。


「極点を前に後ろを見せるとは愚かなり!」


 川に向かうツネヒコの真後ろに、ブエルが接近していた。槍の刃先は直ぐそこだ。


「うるさい、この不細工!」


 魔剣は一度弾かれたことで、切れ味を増していた。ツネヒコは振り返りざまに、斬撃を放つ。ブエルの槍術によるガードさえも斬り裂き、奴の顔面を真一文字に抉った。


「ぎゃあああ! 我の顔が! 美しい顔があああああ!」


 ブエルの絶叫を聞きながら、ツネヒコは冷たい川に飛びこんだ。


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