第8話 剣を求めて(遠征)

 王国の砦内、ツネヒコ達は狼血兵団のエジンコートを屈服させた。囚われていた王国の傭兵は口封じをして帰した。裏切り者の狼血兵団百人を仲間に引き入れたことを口外させない為だ。


「……これからよろしく」


 エジンコートは脱がされた重鎧を再び纏い、ツネヒコと握手をした。


「頼りにしているぞ」

「良かった、仲直りしたんだね」


 戦闘に巻き込まない為に離れていたソフィーがランドドラゴンと共に戻って来た。握手をするツネヒコとエジンコートを見て、ホッとした顔をしていた。


「ソフィー、大丈夫ちょっとした喧嘩だから」

「わたしは傭兵のこととか知らないけど、みんな仲良くが良いな」

「もう裏切るなんてことはしない。ツネヒコが養ってくれるって、言ったからね」

「うわぁ、太っ腹だなぁ」


 エジンコートがツネヒコに向けてウィンクした。いきなり百人も増えて、お金や食料とかどうしようかとツネヒコは悩んだ。


「はは。とりあえず、ミッドランドの街に行って報酬を貰ってくるよ」

「狼血兵団を倒してないのに、お金とやらは貰えるんですの?」


 シムが疑問を投げかける。


「大丈夫さ、依頼内容は砦の奪還。そこにいた敵の傭兵が生きてようが死んでようが気にしない」

「なんだか、詐欺みたいですわね」

「いいんだよ。ところでシム、ランドドラゴンの力なら人間を何人引っ張れる?」

「あの子達は魔物ですよ。一匹で十人は引き摺れますわ」

「素晴らしい。街に報奨金で木材を買ってくる。それで馬車を作るんだ。もちろん、ランドドラゴンに引かせる」

「人間と一緒に馬車に乗れとおっしゃるのですか?いいですけど、条件がありますわ」

「条件?」

「ワタクシと一緒の馬車にツネヒコが乗ること。それが条件ですわ」

「了解した。分かったよ。いくぞエジンコート、人手がいる。着替えてこい」

「はいはい、荷物持ちね。いくよ皆」


 ツネヒコとエジンコートとその部下と共に街に戻った。先に戻った捕虜にされた傭兵が口添えしてくれたお蔭で、ツネヒコはギルドハウスから砦奪還遂行の報酬金を貰った。

 そして木材をしこたま買い込んでいく。



◇◆◇



 皆で協力して作り上げたのは、十一個の馬車。三匹のドラゴンで一つを引く。仲間達百三十五名を大体均等に分ける。

 完成する頃には既に日は落ちかけていた。


「団長? 目的地は?」


 ツネヒコと同じ馬車に乗ったエジンコートが問いかけてきた。


「団長だって?」

「これだけの数がいるんだもん。もう立派な傭兵団長だよ」

「いや、まだまだだ。騎兵と歩兵だけ、数が揃っただけでは軍とは言えない」


 術師の部隊のような、後方支援が必要だとツネヒコは考える。自分が魔法を使えるが、数が足りない。それに自分も足りない部分がある。


「俺は武器が欲しくなった。エジンコート、君との戦いで重鎧にはこの程度の剣じゃ歯が立たないってことが分かったからな」

「じゃあ、良い鍛冶師のいる街に案内するよ」

「ミッドランドで言っていた良い防具屋か?」

「いいえ、そこよりもずっと良いところ。私達の防具や剣もそこで作って貰ったの。あそこはモノづくりの極地よ」

「じゃあ決まりだな。エジンコート、案内してくれ」

「了解」

「しゅっぱーつ!」


 同じ馬車に乗るソフィーが快活に声をあげる。

 ランドドラゴンの手綱を握るエジンコートを先頭に、馬車の一団が出発する。

荷台に乗るツネヒコの隣にはシムがいる。


「なかなか快適ですわね、ツネヒコ」

「ひっつくなって! その……色々当たってるから!」

 

 シムに腕を掴まれ、ツネヒコの手は彼女の谷間に挟まれている。草原を行く馬車の上下の揺れに合わせて、柔らかさが伝わってくる。


「うわわわ! ツネヒコ! 普通の馬車より揺れるよ わたしが落ちないように支えて!」


 ソフィーまで抱き付いてきた。彼女の膨らみかけの胸も、また一味違う柔らかさがある。


「大丈夫だって、そんな簡単に落ちないって」

「ソフィー、しっかりとツネヒコにくっつくのですわよ」

「うん!」


 シムとソフィーに両側から、ツネヒコは抱きつかれている。快適なクッションに包まれているようで、とても心地良い。


「あんたら、イチャイチャイチャしないの! 運転に集中できないでしょ!」


 エジンコートが眉間に怒りマークを浮かべていた。馬車の揺れに合わせて、彼女の鎧がガチャガチャと音を立てていた。



◇◆◇



 馬車で移動すること、約三日。買っておいた食料が尽きかけた頃。草原を越え、ゴツゴツとした山場を行く。地面は悪く、余計にランドドラゴンの馬車は跳ねた。その度にシムの巨乳がこれほどまでないほど、跳ねた。


「あっ……あっ……もう、痛くなってしまいますわ~」

 この辺りは鉱山で、純度の高い鉱石が取れるとエジンコートが言っていた。山を切り開くようにして炭鉱の街があった。街というには武骨で金属製の城壁に覆われ、中心地には巨大なボイラーが蒸気を噴き出している。巨大な要塞に見えた。


「エジンコート、常連よ。開けて」


 彼女が手を振ると、重厚な鉄の門がひとりでに開いた。街の中は工場のようだった。金属のパイプが張り巡らされ、地面までも固い。


「久しぶりでありますな、エジンコート殿!」


 迎えてくれた子は、とても小さかった。ガチの幼女ほどの体躯だが、口調は尊大でふんぞりかえっている。油にまみれた衣服、半袖に短パンだが、ところどころに金属のプレートがついている。


「紹介するよ、ツネヒコ。ドワーフ族のチコリだ」


 ツネヒコ達は馬車を降りて、小さい彼女に挨拶をした。どういう経緯の集まりかを説明した。


「――なるほどであります。エルフに獣人、面白い傭兵団を作ったでありますな。エジンコート殿、裏切るからもうドワーフの街には来れないと啖呵を切っておいて、屈服してヒモになっておるとは間抜けでありますな!」

「むう! 放っておいてよチコリ! 私だって、色々と悩んだんだからね!」


 エジンコートはその髪色よりも、顔を真っ赤にしていた。


「ははは。しかしエジンコートを負かす傭兵とは気になるであります。ワシの工房に来るでありますよ、ツネヒコ殿」


 チコリはトテトテと歩いて先導する。ツネヒコはソフィーとシム、エジンコートと共に付いていく。他のエルフと女傭兵たちは、別のドワーフに連れられて馬車を止める場所を探しに行ったり、別行動として離れていった。


「チコリ、君達ドワーフ族は誰にでも平等なのか」

「もちろんであります。ここに来てくれるのは皆、ワシたちを頼ってきてくれるお客さんなのでありますよ」

「知る人ぞ知る名工ってやつか」

「ふっふ~ん、褒めても値引きはしないでありますよ」


 チコリは腰に手を当て、自慢げだ。そんな姿を見て、シムは口を尖らせる。


「エルフとは偉い違いですわね」

「シムといったでありますな。エルフは自然と共に生きる種族、ワシらと正反対であります」

「ねえ、チコリは何歳なの?」


 ソフィーがポンとチコリの頭を叩く。


「乙女の年齢は秘密なのであります!」


 暫くして、チコリが入っていった大きな工房。パイプが入り組み、蒸気を噴き出す機械がすし詰めだ。太陽のような火を放つ、タタラが鎮座していた。


「ツネヒコ殿、ワシはドワーフの姫であります。剣を作る対価、安くは無いぞ」

「ちょっと、今はそんなに手持ちは良くないんだ。でも俺は傭兵、言い値で必ず払う」

「金では無いであります。傭兵として依頼を頼みたいのじゃ」

「それならお安い御用だ」


 チコリはタタラ場にある、鉄を叩くためのハンマーを手に取った。それは幼女が持つには余りにも大きく年季が入っていて、溶けた鉄が返り血のようにへばりついていた。


「ニンゲンを殺して欲しいのであります。そやつの首が、剣を作る対価じゃ」

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