最終話 出発点に戻って再出発!

 「登録いたしました」


 「ありがとうございます」


 「悪いな。クラウンに入れてもらちゃって」


 僕達は解放され、フロラドル領に戻り報告した後、アーズラッドをクラウンラスのメンバー登録をした。


 「ううん。移動して歩くクラウンだけど……あ! 今更だけどアーズラッドがマスターしない? 僕には荷が重いというか」


 「いや、面倒だから勘弁」


 「え? 何それ」


 「シャドウに居た時思ったんだ。結構マスターって大変そうって。何かあれば、呼び出されるし」


 「え~」


 「大丈夫。立派にやってるって。そういうわけで、宜しくな。マスター」


 「もう。マスターって言うのやめてよ」


 そう言って、僕達は笑いあう。

 お兄ちゃん以外は解放された。といってもお兄ちゃんも宿に泊まっているけどね。


 明日には、バイガドさん達が来てお兄ちゃんの聴取が始まる。

 フロラドルさんの話では、おにいちゃんのお蔭で色々わかったから善処されるだろうって事。

 ただ、冒険者には戻れない。


 フロラドルさんの案としては、壊した施設跡に新しい施設を建ててお兄ちゃんにそこで働いてもらうって事らしい。

 引き取り手がフロラドルさんならリュゼラに戻り、生活が出来るだろうとの事。お兄ちゃんも贖罪の気持ちから話してくれたのだろうし、他の人の役に立つ仕事なら少しは気が晴れるだろうって。


 『ねえ、本当に国を周る気?』


 「まだ言ってるの? ミミミラス保存袋を作って届けないといけないでしょう?」


 僕達もただ解放されたわけじゃなかった。

 火を消さずに逃げた事も一応罪な訳で……贖う為に与えられた使命があった。アラーダルダの情報収集。国中を巡りながら探すって事。

 僕には、正確にはラスには暴く事が出来るから怪しい人物のアイテムをこっそり鑑定してアラーダルダの手がかりを手に入れる事だった。

 定期的に連絡を入れられる様に、小型ランプ型のマジカルレコードが連絡用のマジカルアイテムに変わった。

 これもラスが手を加えたので、普通のランプにしか見えない様になっている。つまり鑑定されても大丈夫って事。


 「なあ。俺はいいんだけどさ。二人も連れて行って大丈夫なのか?」


 「うーん。本当は置いて行きたいけど……」


 フロラドルさんは、彼女達を連れて行った方が相手も油断するとか言うんだよね。


 「とりあえず、祝賀会が終わったら旅立つからその時にでも二人に言うよ」


 また今回みたいな目に遭うから新しい施設でお兄ちゃんと一緒に残ってくれるように。


 その後、お兄ちゃんの聴取が終わり、フロラドルさんが言っていた様に、リュゼラとして生きていける事になった。でも、僕が弟だとは知らないままだけどね。言わないでと、僕がお願いしたんだ。

 これ以上、お兄ちゃんを傷つけたくなかった。


 そして、施設の建設が急ピッチで進められたのだ。凄く立派で驚いた。そこには、この領土に戻ってきた時に僕達が寝泊りできるように、僕達の部屋も用意され驚く。


 「私達のお家?」


 レンカが施設を見上げた。


 「うーん。俺達が住んでいたボロボロの施設の面影はないな。まあ取り壊して作り直したんだから当たり前だけどさ」


 施設の敷地自体は広かった。畑もあったし。

 中に入って見学する。

 まずみんなで遊べる広いスペース。奥に食堂。管理人室に従業員のお部屋。この部屋の一つがお兄ちゃんの部屋だ。


 「あ、スラゼにアーズ」


 お兄ちゃんだ。


 「ツエルさん。あ、今はリュゼラさんだったか」


 「うん。新しい名前に慣れないけどね」


 新しい名前か。それが本当の名前なんだけどね。


 「ありがとう。君達のお蔭で俺はここで頑張れる」


 「俺こそ助けてもらってばかりで、ありがとうございました」


 「僕もあなたに助けられたんです。ここの三階が僕達の部屋らしいんで、たまに戻ってきますね、リュゼラさん……」


 「あぁ。楽しみに待っているよ」


 二階が施設の子供たちが寝る部屋になる。僕達の階段とは別になっていて、僕達の部屋に上がる階段は、管理人室の中にあった。しかもドアがあってカギがかかるようになっているので、勝手には入れないらしい。


 もらったカギで開け、僕達は三階へと上がった。

 ドアを開けると、広いリビング。奥にはキッチンもある。そして、部屋が六つ。

 広すぎる……。


 「す、すごいな」


 「うん。凄いね」


 アーズラッド言葉に僕も頷く。

 この領土にいる間は、ここが僕達の住まい。でも落ち着かないな……。



 人、人、人!

 僕達が住む村も人で溢れている!


 フロラドル領の門出を祝う祝賀会が開催された。

 出店も出ていて僕達は例のごとく、食べ歩きだ。

 本当は領土の中心、フロラドルさんがいる祝賀会の会場へ行きたかったけど宿屋は既に満杯。


 チラシの効果もあるようだけど、今回は陛下もお越しになると言うので、大賑わいなんだ。


 『あの男もやるわねえ。うまく利用されちゃったようね。今回の事件がなければ、陛下も来なかったでしょうし』


 まあ、確かにそうだと思うけどね。でもフロラドルさんの手はずのお蔭で万事うまく行ったのは確かだ。


 滅多にお目に掛かれない陛下を見ようと集まった人たちも一つの街には入りきれず、マジカルアイテムを使って音声をそれぞれの街に送っていた。本来は、村にはないんだけど、僕達がいる村にも設置してくれた。だから陛下の声が届くんだ。


 「このマジカルアイテムって絶対お前のあげたお金で買っただろう?」


 アーズラッドが言う。


 「まあ、私物に使ってないんだからいいんじゃない?」


 たぶん施設に僕達の部屋があるのもお金を出したからだと思うし。


 「というかさ、普通、一人多くても金貨一枚じゃないか?」


 今更、アーズラッドがブツブツと言っている。


 「そう言われてもあの時は必至だったし。悪い事に使ってないんだからいいじゃないか」


 「お前さ。金貨10枚あれば、自分の家建てられるだろうが!」


 「え? そうなの?」


 それだったらあげ過ぎだったかな? す、少し後悔。

 でもこうしてお兄ちゃんがお兄ちゃんとして戻れたのもフロラドルさんのお蔭な訳だし。


 「スラゼお兄ちゃん! ここにあのモチが売っているよ!」


 「あ、本当だ!」


 「それ、食うのかよ。俺、違うのがいいな」


 「そっか。アーズラッドはいっぱい食べたんだね」


 「まあ俺も、最初はよく食べたかな」


 そう笑った。


 「えぇ今回、この領土出身のクラウンラスのマスターのスラゼさんから多額の寄付を頂きました」


 「げっほっほっ……」


 「はぁ? おい、大丈夫かスラゼ」


 モチを喉に詰まらせてむせちゃったよ。領土全体に僕の名前が!!


 「彼は施設出身で、取り壊された施設を建て直して欲しい。また、この領土の発展の為に役立てて欲しいと頂きました」


 おぉ。っと、あちこちで拍手が沸き起こった。


 『あれま。これは、全国に名前が知れ渡ったわね。まあ今となっては、裏の組織にあなたはマークされる存在だし、逆によかったかもね』


 「え?」


『世間の目にさらされていれば、迂闊に手も出せないでしょうし』


 そういうもんなのかなぁ?


 「凄いお兄ちゃんいつのまに!」


 とレンカが言うと、サツナも凄いと頷いている。

 本当は、あんな事一言も言ってないんだけどね。


 拍手の中歩くけど誰もその相手が僕だとは気づかない。


 「一気に有名人になっちゃたな」


 ボソッとアーズラッドが呟くけど、そうだろうか?


 □


 祝賀会が終わり夜。

 施設で僕は、レンカとサツナにこれからの事を聞く事にした。


 「僕達は明日発つつもりなんだ。その今回、森の火事を君達のせいにしたやつらがまた狙ってくるかもしれない。だから僕としては、二人共リュゼラさんと一緒に残ってほしい」


 「え! なんで!?」


 「一緒に行く!」


 『いっちょにいく』


 紅葉まで言っているけど、君はわかってないよね?


 「でも危険なんだ」


 「私も冒険者だもん。ちゃんと仕事も受けてやるし、必要ならモンスター討伐もするから!」


 「え! 討伐!?」


 レンカの言葉に僕の方が驚いた。さらさらモンスターの討伐なんてする気はなかった。


 「あのさ。今度俺も一緒だけどいいのか?」


 アーズラッドが言うと、二人はこくんと頷いた。


 「うーん。火が扱えるのは便利なんだよな」


 と、アーズラッド。


 「あのねぇ……」


 「いいんじゃないか? ここにいても狙って来る可能性はあるわけだし」


 アーズラッドがそう言うと、二人はうんうんと頷く。

 二人をどうすると聞いていたのに……。


 『まあいいんじゃないの? 男二人よりは華があるでしょう?』


 それ、冒険に必要なの? まあ楽しいだろうけどさ。


 「わかったよ。ダメダメなマスターだけど改めて宜しくね」


 「わーい」


 レンカが手を上げて喜ぶ。


 ぺたん。

 僕の頭の上に紅葉が着陸した。


 『まもるきゃらだいじょうぶ』


 「ありがとう。紅葉」


 「そう言えば紅葉って、お前が召喚したのか?」


 「いや僕、召喚できないし。紅葉はオウギモンガというれっきとした野生のモンスターだよ」


 「はぁ? よく手懐けたな!」


 「友達だもん!」


 ちょっとムッとしてサツナが言うと、アーズラッドはわりぃと小さく言った。


 次の日僕達は、全員で旅立つ事になりお兄ちゃんに見送られ村を後にした。

 見えなくなるまで手を振ってくれた。


 絶対にお兄ちゃんを奴隷にして、お父さんとお母さんを殺す様に命令した相手を探し出すからね!

 僕はそう誓い、リアカーを引くのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります すみ 小桜 @sumitan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ