8-1 動き始めた運命の歯車

 作っていたら遅くなったので次の朝から採取して調合する事にした。


 「二人共お願いね」


 「「うん」」


 まず、ねじり樹に穴を開けそこに樹液瓶の先っぽを差し込んだ。直接瓶に溜まっていく。二人には、その瓶を支えてもらっている。

 僕はその間に、ハッコウの実を砕く。

 作った粉砕袋に入れ乳鉢の中に置き、手のひらで薬研玉をごろごろ。ほとんど力を入れてないけど砕けたみたい。そしてそれをそのまま乳棒でぐりぐり。

 袋の中を覗けば、さらさらの粉になっている! 凄い。


 樹液の方も溜まったようだ。

 開いた穴に、ルイテットさんに貰った塗料を塗った木の蓋をした。これで今度来た時に穴がわかる。


 「まさかこんな所で役に立つとは」


 『さあ、これからが本番よ。混ぜ合わせて万能薬を作るわよ』


 僕は、こくんと頷いた。

 ここまでは、ラスのお蔭で順調だ。


 『まずは、粉砕袋からサジで二回、調合瓶に移して』


 「うん」


 凄く緊張する。粉砕袋から粉になったハッコウの実を調合瓶に二杯入れた。


 『次にサジ五回分の樹液を調合瓶に入れて、入れたら直ぐに混ぜる』


 「うん。わかった」


 違うサジで、樹液瓶の蓋を開け五杯調合瓶に入れそのままサジで混ぜた。ほのかに黄色ぽかったのが、透明になった!


 『あとは一日寝かすと、とろとろが水の様になるのよ』


 「え!? 凄いね」


 『保存瓶に移すのは、一日経ってからね』


 「うん。わかった。楽しみだね」


 『そうね。後、今日まだやって欲しい事があるの。もしかしたらスラゼにとって辛い事かもしれないけど』


 辛い事? でもここまで来たらやるしかない!


 「うん。やるよ」


 僕は頷いた。



 僕は、冒険者協会の待合室で待っていた。ここは、呼び出した人を待つ場所らしい。

 ラスに言われてアーズラッドを待っていた。


 万能薬は作ったが、ねじり樹は僕だけじゃ行けない場所にある。なので、アーズラッドに頼んで、Dランクの森について来てもらい、ねじり樹を探し当てた・・・・・・・・・・という事実を作る為だ。

 採取するのに同行してもらうだけだけど、騙して連れて行くので今からバクバクと心臓がしている。


 「君がスラゼさん?」


 「!?」


 危なく叫ぶところだった。

 声を掛けて来たのは、青みが掛かった銀の髪をした青年。立派な装備に身を包んで腰に剣を下げている。鋭い目つきも銀。


 知らない人なのに、なんで僕の名前知ってるの?

 僕は、こくんと頷いた。


 「驚かせたようだな。俺は、クラウンシャドウのサブリーダーのツエルだ」


 「あ……」


 アーズラッドのクラウンの人だ。


 「あ、アーズラッド用事あっていなかったんですか? わざわざすみません」


 クラウンに行く連絡は、リーダーに行くらしい。だから代わりに来たのかもしれない。


 「あぁ。ところで君は、彼とはどういう知り合い? アーズはこの街に知り合いはいないと言っていたんだが?」


 うん? もしかして警戒されている?


 「僕は、施設で一緒だったんです。先日ばったりあって。ちょっとお願いしたい事があったので……」


 そう言うとツエルさんは、ジーッと僕を見ている。値踏みされているような感じだ。


 「なるほど。お金でもねだるつもりだったか?」


 「え!? まさか!」


 「じゃ何を頼むつもりだったんだ?」


 え? この人に話していいの? チラッとラスを見ると頷いた。


 「実は、Dランクの場所に採取に行きたくて、Dランクの冒険者がいないと入れないから一緒に来てもらおうかと。あ、ついてきてもらうだけなんですけど……」


 「なるほど。君は何ランク?」


 「Eです……」


 うーん。凄く怪しんでない? まさか本人が来ないとは思わなかったよ。


 「錬金術師なのか?」


 「え?」


 凄く突っ込んで聞いて来るなぁ。


 「いえ……試験みたいのがあって、その材料集めを……」


 「………」


 これ言ってよかったのかな?


 「いいだろう。ただし依頼を出して欲しい」


 「あ、はい。お金は払うつもりだったんです」


 冒険者協会を通さなくても違反ではないし、直接お願いするつもりだった。


 「シャドウでは、冒険者協会を通さない仕事は禁止している」


 「そうだったんですか。でしたら依頼出しますね」


 「指定してほしい。俺で二名で」


 「え!?」


 なぜにツエルさんに?


 「別に君を疑ってるのではなく、そうしないとチェックが入って彼はこの仕事は受けられないだろう。俺も管理している一人だし、俺宛てなら彼を連れて来れる」


 「あ、なるほど」


 アーズラッドの枠で二名なんだ。


 「わかりました」


 「でも一人最低銀貨一枚以上じゃないと、変に思われるからお金がないなら他を当たって」


 「え!?」


 「では。依頼を待ってるよ」


 軽く手を上げツエルさんは去って行った。


 「え~~。銀貨二枚なの?」


 『正確には手数料が取られるだろうからそれ以上かかるわね。それよりも、彼には気を付けた方がいいかも』


 「なんで?」


 『感がいいみたいだからね』


 「うーん。全然違う人を誘ったらダメなわけ?」


 『きっと銀貨二枚じゃ足りないわよ』


 「……二人にしておきます」


 □


 僕は、待ち合わせの森の前で待っていた。

 結局二人で銀貨3枚で依頼を出した。レンカとサツナは、宿で待機してもらっている。


 「待たせたな」


 「いえ。引き受けてくれてありがとうございます」


 「え? スラゼ……」


 アーズラッドが驚いて呟いた。もしかして何も伝えてないの? どういう事?

 聞きたいけど、なんか聞きづらい。

 そして、アーズラッドがムッとしているし……。


 『二人を置いて来て正解ね』


 かもね。


 「それで、場所はわかるのかい?」


 「あ、いえ。探し回るけどいいですか?」


 「かまわない」


 「ありがとうございます」


 僕が先頭を歩き、二人が後ろをついてくる。


 『モンスターがいないところを行くから任せて。後は、スラゼ次第。がんば!』


 うん。わかってる。

 アーズラッドだけではなくツエルさんも騙せるのかな?


 あ、ねじれた木を発見!

 僕は、ねじれ木に穴を空け樹液瓶を入れて採取する。勿論この木がなんの木かなんて知らない。

 とにかくねじれた木から樹液を採取したという、事実を作るだけ。

 こうして、3時間も歩き回った。


 「ふう。ありがとうございました。助かりました」


 「そうか。役に立ってよかった。ところで君、その道具は自分で作ったの? 個性的だね」


 樹液瓶の事を言っているのかも。


 「あ、はい。調合よりこういうのが得意で……」


 「だったらハンドメイドに登録した方がいいだろうな。錬金術より簡単になれる。トータルしたら錬金術は思ったよりお金にならないぞ」


 「錬金術だって……」


 ツエルさんが言うと、驚いてアーズラッドは僕を見た。


 「えーと。ハンドメイド製作者にはなっているんだ。それで欲が出たというか……」


 「既になっていたか。では君は、どこかのクラウンに入っているのか。その人達についてきてもらえばよかったのではないか?」


 「え?」


 またツエルさんの言葉に、アーズラッドが驚く。


 「お前、クラウンに入っていたのか? あの時、そんな事言わなかっただろう?」


 「言おうとしたら行っちゃったから……」


 「どこに所属しているんだよ!」


 「……自分で作って」


 「はぁ? 作ったぁ?」


 「なるほど。おかしいと思った。それなら納得だ。で、今日は一人で来たんだ」


 「……僕一人で十分なので」


 「冒険者カードを見せて貰ってもいいかい?」


 「え? どうぞ」


 何を疑っているんだろう?


 「……妖精の加護持ちか。いるんだな本当に」


 もうこの人、根掘り葉掘り聞く人だ。


 「三人でクラウン作っていたんだな……」


 ボソッとアーズラッドが呟いた。

 何か怒ってるけど、置いて行ったのはそっちじゃないか。


 「アーズの知り合いは、妖精の加護持ちか。凄いな。では戻ろう。暗くなる前に、街に着きたいからね」


 「はい。今日はありがとうございました」


 「なれるといいね、錬金術師に。もしなったら教えて、何か依頼するよ」


 「あ、はい……」


 はぁ……。とっても疲れた。


 『お疲れ様』


 「うん……」


 その日僕は、帰ってすぐにぐっすりだった。

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