8-2
「え? 一回だけ?」
『そう一回だけで十分よ』
今日これから、作った万能薬を錬金術師協会に持って行くつもり。それでオリジナル保存瓶から市販の保存瓶へ中身を移すところだったんだけど、ラスは大きいサジ一回分でいいと言うんだ。
このサジは、水の様な液体をすくう為に深いサジだけど、それでも瓶にうっすらとにしかならない。いいんだろうか?
まあ量はともかく、出来栄えはいいんだから大丈夫かな?
この保存瓶を持ち歩く為に作った、ミミミラス保存袋の小袋に入れ鞄にしまった。
「じゃ行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
二人は元気よく手を振り見送ってくれた。
結果がいつでるかわからないけど錬金術師になれればいいな。
「スラゼ」
宿屋を出た所で声を掛けられた。振り向くとアーズラッドだった。
「アーズラッド。よくここに泊まってるってわかったね」
「うん。教えてもらったから。あのさ、相談があるんだ」
「あ、うん。何……」
「ちょっと来て」
と建物の陰へと連れて行かれた。
「あ、あのさ、採取の手伝いをお願いしたいんだ」
「あ、うん。いいけど……先に錬金術師協会に行っていい?」
「え!? あ……その時間がないんだ」
「時間? 急ぎなの?」
アーズラッドは頷いた。
『もうスラゼ、安請け合いはダメよ。ちゃんと話を聞いてからね。あなたに何かあれば、あの子達も困るのよ』
それはわかっているけど……。
別に錬金術師協会に行くのは今日でなくてもいいわけだし。でもラスの言う通りちゃんと話を聞いた方がいいかもね。
「手伝ってって事だろうけど、訳というか、説明はほしいかな?」
「ツエルさんに恩返しをしたい」
「え? 恩返し?」
「スラゼにもちゃんと借りは返すよ。とりあえず森に向かいながらでいいか? 時間が勿体ない」
チラッとラスは見ると、仕方がないという顔で頷いた。
「わかった。それでいいから話して」
こうして錬金術師協会から森へ行くことになった。
「実は俺、元は違うクラウンに入っていたんだ」
「え!? そうなの?」
そうだとアーズラッドは頷いた。
「この街のクラウンではないけどな。そのクラウンは、歩合制だったんだ」
「歩合制って?」
「クラウンのメンバーで仕事をしていた。その中での活躍度みたいな感じ」
「へえ」
「そこに入ったのは、紹介だったんだ。知り合った冒険者がそこに入っていて……初めはよかった。Fランクは荷物持ちだけでよかったから」
荷物もちか。みんなのだったらそれも大変そうだけど。
「ランクの高い仕事を請け負っていたから俺は、すぐにEランクになった。荷物持ちから解放されるかと思ったけど、結局出来る事がないから荷物持ちしかできなくって、しかもEランクからは寝床と食事代が差っ引かれた」
「え? 差っ引かれるの? って、食事まで出るところだったの?」
「……食べなくても引かれるんだ。だから食べていたけどさ。抜けようと思っていたんだ。自分で買って食べると言ってもそういうルールだからとお金が引かれる。しかも個人で請け負いもダメ。これじゃ飼いならしだろう? だから抜けるって言ったんだ。そしたら……」
「そしたら?」
「僕を引き入れた冒険者が逃げ出したから俺にそいつの借金を払えって……」
「え? なんでアーズラッドが?」
「俺もそう言った。特段仲がよかったとかではなく、知り合ってクラウンを紹介された程度だった。俺も浮かれていたんだ。クラウンに入れてラッキーって。最初は、食事代だってかからなかったからな。荷物を持って歩くのも大変だったけど、それしか出来なかったし」
「抜けるのって大変なものなの?」
「登録も除名もギルドマスターにしか権限がないんだ」
あ、そういえばそうだった。
でも今違うクラウンって事は、抜けられたんだ。
「それでそいつを探して来いって言われて……Dランクになった」
「うん? どういう事?」
「実績があればDランクになれる」
「あ、いや、そうじゃなくて、なぜ探すと言われてDランク?」
「あ、そっか。どうやらこっそりDランクの仕事を受けて向かったようだって掴んでいた。だから後を追う為にDランクになって向かった」
という事は、その人もDランクだったんだ。
「で、見つけたんだけどそいつは毒で死んでいたんだ」
「え? 毒?」
「採取の仕事が毒のキノコだったんだ。その胞子に毒があって行った時には……」
「え!? よくアーズラッドは無事だったね」
「ツエルさん達に助けられた」
「あの人に?」
アーズラッドは、頷いた。
「解毒剤を持っていて俺は助かった。事情をツエルさんに話したら冒険者協会に言ってくれて、そのクラウンは解体になった」
「そうなんだ。その縁でシャドウに入ったの?」
「あぁ。ツエルさんにDランクなら入れるからって。でも結局、俺の出来る仕事はなくて。シャドウは、必ず冒険者協会を通した仕事だけど、チェックが入るんだ」
そう言えばそんな事をツエルさんが言っていたっけ。
「ランク序列で、請け負った仕事の一割をまず受けた人が受け取り、後は分配する仕組み。勿論全部分配はしない。クラウンで家を借りているので、家賃代とか食事代とかかかった経費を引いたのを分配する」
「うーん。それって結局貰えるの少ないって事?」
「前の所は、Eランクになってからはマイナスだったよ。逆にお金をむしり取られていた。俺を引き入れた奴は、新しい奴を連れて来たら借金を減らすと言われて俺を誘ったようなんだ」
「何それ……」
「お金を持っているってわかって、俺をクラウンに引き入れたみたいなんだ。だからお金はなくなっちゃってさ……」
「そんなクラウンがあるなんて……」
「稀にあるらしい」
「そうなんだ……」
「俺はDランクだけど実力が伴ってないからDランクの仕事すらこなせない。Eランク以下の仕事はほぼないし。だからツエルさんに連れて行ってもらったりしていたんだ」
そっか。だから一緒に来て、僕がいたから驚いたんだ。
「今回の仕事は、ツエルさんが選んでくれて至急の仕事だから割高なんだ。お前に手伝わせて悪いと思うけど、お前に頼んでお金を稼げって」
「え? ツエルさんが?」
そうだとアーズラッドは頷いた。
『抜け目ないやつね』
「いい人なんだよ。ただちょっとお金にがめつい所があるけど……。今回のお金は、ツエルさんに半分上げるつもりなんだ。本当は、一割全部って言いたいけど、お金ないし。引き受けてくれてありがとうな」
アーズラッドも苦労してるんだ。
僕も一人だったら同じ目にあっていたかもしれない。
「ねえ、僕達のクラウンに入る?」
『スラゼ! あなたの能力を彼に教える事になるわ』
「ダメ?」
『ダメよ! あなたはお人好し過ぎる!』
「そうだな。そっちの方がいいかもしれない。情けないけど、今の街に居たらずっとこのままだ」
『あのね。今の話、嘘かもしれないでしょう?』
え? なんで僕に嘘をつくのさ!
そう叫ぶところだった。
キッと、初めてラスを睨んだ。
嘘をついたのは、僕の方なのに!
『わ、悪かったわよ。でも、そうなった時、傷つくのはあなたなのよ?』
僕は、わかってると頷いた。
僕達は森に入り、Dランクの場所を目指す。
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