第21話 乗った!その作戦!!

 ところで、以前に『霊峰の地下洞窟』というダンジョンについて話をしたと思うんだけど、ああいうパーティを組んだ人達だけが突入できるダンジョンをインスタンス・ダンジョンと呼ぶんだ。

 一方で同じ洞窟でもワールドマップの延長で誰でも入れるのをパブリック・ダンジョンと呼んで区別しているんだけど。

 パブリック・ダンジョンにはインスタンスにはない緊張感があるとかで今でもギルドのイベント何かで利用される事がある以外は……ボスのドロップ品が欲しい人もほとんどいなくて(上位の装備やもっと楽に取得できる等価値の装備が出て来たから)、昔を懐かしむ人が散歩がてら向かう所というのが今のパブリック・ダンジョンに対する共通認識だ。

 ではなぜそのパブリック・ダンジョンについて話をしたかというともちろんセシルさんの作戦で使うからで。


 セシル=ハーヴ:まぁパブリックが廃れて新しい物がほとんど実装されてないのはその通りなんだけど実は新しいエリアがいくつか解放されるタイミングで一つくらいは何の予告も無しに実装されてんだよな。今回行く場所もそういう追加された所の一つだ。


 パブリック・ダンジョンで僕とモモちゃんが話をしたらセシルさんがアカウント停止処分を受ける理由は未だに不明だけどまぁ何をすればいいかだけは理解した。

 本当に上手くいくのかは分からないけど……話せるタイミングになったらセシルさんが通話アプリにメッセージを入れてくれるらしいから僕はほとんど待ってるだけになるけど。

 やっぱり人任せになってしまった……。


 ラズベリー=パイ:ほんと……パンツには肉おごってもらわなきゃ割に合わないわね

 リリィ=リィ:ごめん……

 ラズベリー=パイ:そのすぐごめんって言うの止めなさい。取りあえず謝りの文句を言っておけばいいなんて間違いよ。もっと頭使いなさいっての

 リリィ=リィ:……

 セシル=ハーヴ:頭使うパンツはパンツと呼んでいいのかどうか問題だな?

 ラズベリー=パイ:頭使っても使わなくてもパンツはパンツでしょ

 リリィ=リィ:…………


 ちなみに作戦は今日が休日という事もあってすぐに行う事になった。

 僕はチャットをしながら作戦の舞台となるパブリック・ダンジョンに一人で向かっている。

 あらかじめぐぐって指定ポイントまでの道のりを調べておいたので迷う事なく奥へ奥へと進めてはいるのだけど……。


 リリィ=リィ:ねえ、ここちょっとダメージが多いんだけど

 セシル=ハーヴ:そりゃそうだろ1年くらい前に実装された土地だし。俺でも多数に囲まれたらソロで突破するのは無理だぞ

 リリィ=リィ:え、それ耐久力ないとやばいんじゃ

 セシル=ハーヴ:実装当時に魔法使いのソロ突破報告が無いわけじゃない。多数に絡まれなければ大丈夫だ


 それリリィが死んでしまったら最初からやり直しって事じゃん……。

 鬱蒼とした密林のマップに点在する現実ではありえない程大きくて太い大木にぽっかりと開いた人が余裕で通れる大きさの樹洞うろからパブリック・ダンジョンに侵入したリリィを、僕は慎重に奥へといざなう。

 一発一発のダメージが大きく設定されている魔法使いは、欠点として魔法の発動まで数秒から数十秒動く事が出来ない。

 少しなら足止めの魔法も使えるけど本職の巫術師ほどではないから大量にモンスターを『引っかけて』しまったら潔く諦めるしかない……。


 リリィ=リィ:ついたよ。指示通り物陰に座り込んでる


 どうにかこうにか最奥の部屋までたどり着いた僕は他に人がいない事も確認して、正方形をした部屋の一角、L字に区分けされた小部屋へとリリィを隠す。


 セシル=ハーヴ:よーし。んじゃこっちが向かうから合図するまでそこにいな


 果たしてうまく行くのかなぁ。

『あえて全部は話さない』と僕は僕のやる事……ここまで一人でたどり着く事とここでモモちゃんと話せという事しか聞かされていない。

 たぶんここにモモちゃんのキャラ、アールちゃんを連れて来るんだと思うけど……。

 どうしてここなのかは……分からなかった。


 セシル=ハーヴ:あ、あとこれから何があっても合図するまではチャットしないように


 今は言われた通りにするしかなかった。

 自然の地下洞窟と言った感じのマップが続いていたんだけど、この最奥の部屋だけは何故か人の手が入ったような……周囲の岩盤を綺麗に掘削されている事はちょっと気になったんだけど、それもどうしてか僕には分からなかった……ぐぐっても出てこなかったし。


 アール=リコ:こんばんは~


「!!」


 僕がログインしているのにどうして……。


 セシル=ハーヴ:こんばんはー。じゃ、行こうか~


 アール=リコ:あ、はい。蜃気楼の襟巻でしたっけ。

 セシル=ハーヴ:そうそう。あれあるとレイド攻略が楽になるからね


 僕がいるのに堂々とログインしてきたアール=リコ。

 そして他の誰も僕がいないかの様に……。

 あ。

 そういえばあれから……前回の作戦を開始した時僕はログインを非表示にしたまま戻していなかったっけ……。

 普段使う事のない機能だからつい戻すのを忘れていたよ。

 そっか、それで……後で戻しておこう。

 それよりも蜃気楼の襟巻、って何だろう。

 暇に任せてスマホを弄ると……『炎と風属性に対する抵抗力が30%上がる』アイテムだそうだ。

 確かに熱風がエリア全体にダメージをまき散らす箇所があるからあれば凄い楽にはなりそうだ。

 でもそんなに強いアイテムなら誰もが求めるんじゃ、と思ったけどひとつ前のレイドで35%上がる完全に上位互換のアイテムが取れたはずだからそれで不人気って事かな。

 セシルさん、ラズさん、そしてアールちゃんの和気あいあいとしたチャットが流れる中を必死の思いで何もせず待つ。

 それは1分が1秒に思えるほど、僕にとってはとてもとても長い時間に思えたんだ。

 ……セシルさん、本当に大丈夫です、よ、ねぇ……?

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