模擬戦の決着

 ほんの数秒前までレオとバイシャマンの二人は全く同じ外見、機体に何の特徴もないのっぺらぼうの人形のような外見をした訓練用の戦者に乗っていたはずであった。


 しかし今レオが乗っている戦者は、全身が白く軽装の鎧を着て獣を模した仮面を被った戦士のような外見をしている。その姿は彼が作り出した頭部が獅子の戦者とどこか似ていた。


 突然すぎる大きな変化に、バイシャマンだけでなく模擬戦を観戦していたリア達も「別の戦者と入れ替わったのではないか?」と思わず考えた。だが周囲にはレオとバイシャマンの二体の戦者の姿しかなく、他の戦者が隠れられる場所なんてどこにもなかった。


『お、おい……! それに乗っているのはレオか? お前、いつの間に戦者を乗り換えたんだ?』


「? 何を言っているんだ? ………?」


 バイシャマンの言葉に眉をひそめるレオだったが、彼だけでなくリア達も信じられないものを見るような目を自分に向けていることに気付くと、戦者を操作して操縦室の壁に今自分が乗っている戦者の姿を映す小画面を作り出す。


「これは……!? ………そうか、戦者が成長したのか」


 レオは自分が乗っている戦者の姿が変化しているのを見て驚くが、すぐに何が起こったのかを理解する。


『成長、だと?』


「そうだ。戦者は元々戦師と一緒に成長する兵器だ。恐らくさっきの二回の雷装動サンダーボルトの影響で一気に成長したんだろうな」


 バイシャマンの言葉に頷いたレオは何でもないように自分の予想を口にする。そしてその予想は当たっていた。


 レオとバイシャマンが乗っている戦者は、今まで鉄の学舎の生徒達に訓練用に乗り回されていたが、それで得られる経験の質は高くなく機体が変化するほどの成長には至らなかった。しかし先程のレオが雷装動サンダーボルトを発動させた経験によって、彼の乗る戦者は雷装動サンダーボルトの発動に適した形状にと成長したのである。


『……!? まさか、マジだったのかよ、サンダーボルトが使えるってのは? ……伝説の奥義だぞ!?』


 顔を見なくとも聞くだけで驚きと恐れが伝わってくるバイシャマンの声を聞いて、レオは口元に小さな笑みを浮かべた。


「ようやく理解してくれた? だったらこれも覚えておきなよ。雷光破サンダーボルトは確かに戦者の奥義とも言える技だけど、同時に戦者に乗るなら最初に覚えるべき通常技でもあるんだよ」


『………は?』


 レオが前世の戦師としての常識を口にすると、それを聞いたバイシャマンはこれで何度目になるか分からない、驚きによる思考の停止状態となる。しかしレオはバイシャマンの復活を待つことなく自分の乗る戦者を操作して右腕を挙げさせると、戦者にとっての奥義であり通常技、基本技にして絶技を発動させる。


雷光破・輝刃剣サンダーボルト


『っ!? う、うおおぉ……!』


 レオが乗る戦者は天に掲げた右手に眩い輝きを放つ光の長剣を作り出すと、光の長剣をバイシャマンの戦者の手前の地面に振り下ろす。そして光の長剣の先端が地面に触れた瞬間、地面に爆発が生じてバイシャマンの戦者を吹き飛ばした。


「君は雷光破サンダーボルトを特別視しすぎなんだよ。戦師なら誰だって努力次第で雷光破サンダーボルトを習得できるんだから」


 レオは爆風に吹き飛ばされたバイシャマンの戦者が、地面に倒れて動かなくなったのを確認するとそう呟いた。それは彼だけでなく現代の全ての戦師達へと向けたレオからのアドバイスであった。

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