静かな怒り

「お前……今、何て言った……?」


 レオは今まで自分でも聞いたこともないほど低い声で呟いた。


『ん? 何だって?』


「俺の……雷光破サンダーボルトを、偽物って言ったか?」


 レオの言葉にリアやルナを初めとする女学生達と女性の教官は違和感を感じたのだが、バイシャマンだけは彼の変化に気付くことなく、相変わらず自信に満ちた表情で頷き答える。


『ああ、言ったぞ。サンダーボルトは全ての戦師が目指す、天に選ばれた戦師である俺様でも今だに使えない伝説の奥義だ。まぁ、いずれは修得してみせるがな? そんな奥義がお前に使えるわけないだろう? 確かに戦師である以上、サンダーボルトに憧れる気持ちは分かるが、戦者の特殊機能を伝説の奥義だと言っても嘘がバレバレだ』


「………!」


 バイシャマンの言葉にレオはかつてない怒りを感じた。


 昨日の模擬戦でリアに問い詰められた時、レオも雷光破サンダーボルトを戦者の特殊機能だと言って誤魔化そうかと考えた。しかし実際に何も知らない人間に自分の雷光破サンダーボルトを偽物扱いされると、予想以上に不愉快な気分となることを彼は知った。


 レオは前世の戦場で出会った戦師達が使っていた雷光破サンダーボルトのほとんどを修得している。


 そしてこれらの雷光破サンダーボルトの技の数々は、かつて共にデスと戦った戦友達との記憶そのものであると言っても過言ではない。


 自分が嘘つき呼ばわりされるのはまだいい。だが、このラナ・バラタをデスから守るために戦い、死んでいった戦師達がいたという事実を偽物、嘘とされるのは我慢がならなかった。


 バイシャマンは別に、前世の戦友である戦師達を否定した訳じゃないことは理解している。これからすることは単なる八つ当たりであることも分かっている。


 だがそれでもレオは、この模擬戦でバイシャマンを完膚なきまで叩きのめすことに決めた。


「……」


『へぇ? いきなりやる気になったみたいだな。いいぜ。そうじゃないと面白くないからな』


 レオの闘志を感じとったバイシャマンは戦者の操縦室の中で不敵な笑みを浮かべ、挑発するような言葉を言う。


 ……それがどれだけ無謀なことか知らずに。


「……教官さん。すみませんが、合図をお願いします」


「え、ええ。バイシャマンさんもよろしいですか?」


『俺はいつでも構わないぜ』


 審判役の女性の教官は、レオの態度の変化に戸惑いながらもバイシャマンに準備が整ったのか聞いた後、昨日の模擬戦でも使われた合図の旗を掲げる。


「それでは……始め!」


『ヨオッシャッア!』


 女性の教官が合図の旗を勢いよく振り下ろすのと同時に、バイシャマンの乗る戦者がレオの乗る戦者に向かって駆け出す。


 しかしそれに対してレオの乗る戦者は微動だにせず、その操縦室の中でレオはこちらに向かってくる戦者を冷めた目で見ながら小さく呟いた。


「……雷装動サンダーボルト

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