二回目の模擬戦

(俺はどうしてここにいるんだろう……?)


 レオは半ば現実逃避気味に心の中で呟いた。


 今レオがいるのは鉄の学び舎の戦者を保管している格納庫……ではなく、戦者の操縦室の中。それも自分が作り出した頭部が獅子の戦者とは違う、鉄の学び舎が保有している練習用の戦者のである。


 周囲を見回せばそこは昨日、レオが軍人達が乗る三体の戦者と模擬戦をした平原で、正面には彼が今乗っているのと同じ練習用の戦者が、腕を組んで胸を張った体勢で立っていた。


「これも全部アイツのせいだ……!」


 レオは目の前に立つ戦者の胸部、操縦室の中にいるバイシャマンに視線を向けると、恨みの言葉を呟いた。今彼がこの様な事態になっているのは全てバイシャマンが原因だからである。


 事の始まりは今から一時間前。バイシャマンが、女性の教官の説教から逃れるためにレオに話しかけたことだった。


 レオに話しかけてきたバイシャマンは、最初こそは上から目線の言い方ではあるが「先に入学したのは自分だから分からないことがあれば何でも聞け」みたいな、彼にしてみればそれなりに友好的な内容の話をしていた。


 しかし話をしているうちにバイシャマンは「天に選ばれた戦師」としての自信を取り戻したのか、話がどんどん加速していって最終的には「戦師としての実力は自分の方が上だ。だからそれを証明するために自分と勝負をしろ」という意味不明の宣戦布告をレオに行ったのだった。


 一体どうしてバイシャマンがその様な事を言い出したのか、今考えてもレオには分からなかった。だが意外にもそんなバイシャマンの宣戦布告に、リアやルナを初めとする女学生達だけでなく、彼を説教していた女性の教官まで興味を持ったのだ。


 そして結局、自分の目でレオの実力を見極めたいと思った女性の教官が許可を出したことにより、レオとバイシャマンの模擬戦が行われることになったのである。


「何で二日続けて模擬戦をしないといけないんだ?」


 この鉄の学び舎で自分の実力を知らしめることは、将来軍で出世して故郷に錦を飾るという目的の大きな助けになることはレオも理解している。しかし今回の模擬戦は見世物にされているようにしか思えずあまり気乗りしなかった。


『はーはっはっ! よく逃げずに来たな! その勇気だけは認めてやるぜ!』


 レオが内心でうんざりとしていると、バイシャマンが乗っている戦者から彼の笑い声が聞こえてきた。すると鉄の学び舎の格納庫からこの平原に来るまで、何度も同じことを言われていたレオは更に気分が滅入った。


『お前も俺と同じ男の戦師のようだが、真の天に選ばれた戦師はこのバイシャマン様だ! それをこの模擬戦で証明してやるぜ!』


「……」


 もはやレオはバイシャマンに返事をする気力はなく、遠くから二人が乗る戦者を見ているリアやルナを初めとする女学生達や女性の教官も呆れ顔となっている。だがそれをどう受け取ったのか、バイシャマンは更に調子をよくして言葉を続ける。


『昨日の模擬戦では伝説の奥義サンダーボルトを使ったという話だが、そんなのは所詮お前の戦者の特殊能力にすぎない! この模擬戦ではお互いに練習用の戦者を使うから、お前の偽物のサンダーボルトは使えないぜ!』


 今この時までレオのやる気は皆無で、模擬戦も負ける気はないが本気で戦う気もなかった。しかし……。


「……………あ?」


 バイシャマンの言葉がレオの逆鱗に触れてしまった。

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