二人目の男の戦師

 レオが戦者の格納庫に着くと、そこにはレオと同じ戦師の学生の制服を着た女性がすでに十人ほど集まっていた。そしてその中には、先に格納庫に向かったリアと、昨日食堂で会って会話をしたルナの姿もあった。


(あの人、確かルナさんだったよな。リアと同じ学年なのかな? ……ん?)


『『………』』


 リアとその近くにいるルナの姿を確認したレオは、視線を感じて周囲を見回した。すると格納庫にいた戦師の女学生達の全員がレオを見つめていた。


 レオは女学生達が自分を見る目に見覚えがあった。二日前、戦者に乗って鉄の学び舎にやって来た時に教員達が自分を勧誘してきた時と同じ、こちらを期待して品定めをするような目。しかし女学生達の目には、それ以外の感情が含まれているような気もする。


(あらら。やっぱりこうなったか)


 ルナはレオを見つめている女学生達と、彼女達の視線を受けて戸惑った表情を浮かべているレオを見て内心で苦笑する。


 昨日食堂でレオと会話をしていた時、ルナは大勢の女性が、彼が持つ男の戦師としての「種」と戦者を目当てに言い寄ってくると予想していた。そしてその予想は正しく、思った以上に早かったようだ。


 今レオを見つめている女学生達は家からの指示か自分の意思かは分からないが、彼を待ち構えていた自分の元に招き入れ、あわよくば「婿」にしようと考えているのだろう。


 そこまで考えたところでルナは、自分の隣にいる同学年の友人であるリアが心配そうな顔でレオを見ているのに気づき、彼女に声をかける。


「どうしたの、リア? やっぱり貴女もレオ君のことが気になるの?」


「……え? あ、ああ。そうだな……」


 ルナはリアの返事に内心で首を傾げる。いつもの彼女であれば肯定であれ否定であれ、もっとはっきりとした返事をするはずだ。


 いつもと様子が違うリアにルナが一体どうしたのかと声をかけようとしたその時……。



「はっはっはー! この俺様を抜きにして随分と楽しそうじゃないか?」



 格納庫にやたらと大きな男の声が響いてきた。


「あ~、もう来たんだ……」


「……」


 ルナは格納庫に響いた男の声を聞いて何とも言えない表情となり、リアはうんざりとした表情となる。他の女学生達もルナとリアのどちらかと同じような表情を浮かべ、女学生達の変化に戸惑いながらもレオは声が聞こえてきた方を見る。


 男の声が聞こえてきた方、格納庫の入り口には一人の男が立っていた。


 年齢はレオと同じくらいだろうか。男性用の戦師の制服を乱して着こなし、見事なまでに赤い赤毛の髪を植物の油を使った整髪料で逆立てた髪型にしており、その顔には並々ならぬ自信を感じされる不敵な笑みを浮かべている。


「待たせたなぁ、お前ら! 天に選ばれた戦師バイシャマン! ここに帰ってきたぜ!」


 新たに格納庫に現れた男の戦師の学生、バイシャマンが高らかにそう叫ぶと、レオの耳に「誰も待っていないって……」と誰かが呟いたのが聞こえた気がした。


(そういえば昨日、俺以外にも二人、男の戦師がいるってルナさんが言っていたっけ? それにしても……)


 レオは昨日の食堂でのルナとの会話を思い出すと、格納庫の入り口で何かのポーズをとっているバイシャマンをもう一度見て思った。


(何というか……無駄に騒がしそうな奴だな……)

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