朝の会話

 模擬戦を行った日の翌日。制服に着替えたレオが授業に出席するべく自室を出ると、通路には見知った顔が彼を待ち構えていた。


「あれ?」


「お、おはよう。レオ」


 通路でレオを待ち構えていた人物、リアは彼が部屋から出てきたのを見ると、どこか少しぎこちない様子で挨拶をしてきた。


「ああ、うん。おはよう」


「今日の最初の授業は、私の学年とお前の学年合同の実技訓練だからな。……良ければ一緒に行かないか?」


「それは……別にいいけど」


 ぎこちない様子のまま誘ってくるリアにレオは内心で首を傾げるが、特に断る理由もないので一緒に行動することにした。そしてしばらくの間、二人とも無言で通路を歩いていると、先頭を行くリアが振り返ることなくレオに話しかけてきた。


「レオ……。昨日のことはすまなかった」


 突然のリアからの謝罪。それが昨日の模擬戦の後で、まるで怪物を見るような目を向けてきたことだとレオは理解すると、首を横に振ってから返事をする。


「いや、もう気にしてないよ。リアや他の人達にとって雷光破サンダーボルトが使えるのって特別な意味があるんだよね?」


「そうだ。昨日も言ったようにサンダーボルトは戦者の最大の奥義だ。それをお前はまるで基本の技のように使っていたので動転してしまった」


(まあ、実際前世では基本技だったからね)


 リアの言葉にレオは内心でそう呟くが口には出さないでいた。


 それからまたレオとリアの二人は無言で通路を歩いていたのだが、しばらくするとリアが歩きながら口を開く。


「そ、それでレオ……」


「何?」


「私は子供の頃から戦師としての才能を認められ、ずっと軍人となるべく育てられてきた」


「? そうなんだ」


 リアが何故いきなり自分の過去を語り始めたのかは分からなかったが、レオは相槌を打って彼女の話を聞く。


「だからというわけではないが……その、昨日のお前の戦いはとても美しいと思ったぞ」


「……え?」


 思いがけない言葉を聞いたレオは、思わずその場で足を止めて自分の前を歩くリアの背中を見る。


「それって……?」


「っ! 急用を思い出した。わ、私はもう先に行く。訓練に参加する学生は戦者の格納庫に集合だから、お前は格納庫へと向かえ」


 リアは早口でそう言うと、足を早くして先へ行ってしまう。そして一人残されたレオは、彼女が歩いていった先を見つめながら呟いた。


「あれって俺のことを認めてくれたのかな? ……そういえば義母さん以外の女性に誉められるなんて初めてかもしれないな?」


 レオは自分が思わず呟いた言葉の意味を改めて理解すると、口の端を小さく持ち上げた。


「今日は少しはいいことがあるかもしれないかな?」


 そう言ったレオは、先程よりも僅かに軽くなった足取りでリアが向かった戦者の格納庫へ、自らも向かうのであった。

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