食堂での会話

 ルナと名乗った女学生は、レオよりもわずかに歳上でリアと同い年くらいに見えた。輝くような長い金髪を頭の左右で縛った髪型にしていて、その非常に整った容姿からはどこかの国のお姫様のような気品が感じられる。しかしそれを気にさせない明るい雰囲気を身に纏っていた。


「………」


 レオに自己紹介をするのと一緒に同席する許可を取ったルナは、彼の隣の席に座るとそのまま夕食を食べる……わけでもなく、興味深そうにレオの横顔を眺める。


「あの、何ですか? 俺の顔に何かついていますか?」


 流石に至近距離からあからさまな好奇な視線を向けられると気にならないはずがない。レオが困惑した表情でルナに話しかけると、彼女は笑みを浮かべて答えた。


「ああ、怒った? 気にさわったらゴメンね。噂の時期外れの新入生、男の子の戦師がどんな子か興味があったの」


「そうなんですか?」


「そうなんですよ。ほら、周りを見てみたら?」


 ルナに言われてレオは周囲を見回した。食堂には当然彼ら以外にも夕食を食べに来た学生や教師が大勢いて、そのほとんどがルナほどあからさまではないがレオに視線を向けていた。


 どうやら考え事をしていた為、今まで注目されていたことに気づいていなかったことにレオが気づくと、それを見ていたルナが笑いながら話しかける。


「ね? 言った通りでしょ? 女の子の戦師は十人に一人の割合でいるけど、男の子の戦師は千人に一人いるかいないかだからね。鉄の学び舎には君を含めて三人しかいないから皆気になっているんだって」


「俺以外にも男の戦師がいるんですか?」


 自分以外にも二人男の戦師がいるという情報にレオが思わず聞くと、ルナは頷いた後、悪戯っぽい表情を浮かべてレオの顔を指差した。


「いるよ。そしてその三人の中ではレオ君、君が一番話しやすそう。だからこれから先、沢山の女の子に声をかけられるかもね?」


「俺が、ですか? どうして?」


「だって男の子の戦師なんて女の子からしたら憧れの存在だからね。それにレオ君って、もう自分だけの戦者を持っているんでしょ? だから……」


 意味が分からないといった表情をするレオに、当然とばかりに説明をするルナだったが、そこまで言ったところで口を閉ざした。


 男の戦師であるレオの「種」と彼の戦者の力は、貴族と軍人にとってとても魅力的だ。だからその両方を手に入れようとする家から命令されて、彼を誘惑しようとする女性がこれから大勢出てくるだろう。しかしそれを告げるつもりはなかった。


「あの……? どうかしましたか?」


「ううん。何でもないよ。気にしないで」


 急に黙ってしまったルナにレオが声をかけると、彼女は首を横に振って誤魔化した。


「そうですか。それで、俺以外の男の戦師達って、どんな人達なんですか?」


「レオ君以外の二人? 一人は王家の第二王子なんだけど、王族としての勉強や仕事があるみたいで中々鉄の学び舎には来ないかな。それでもう一人なんだけど……」


 そこでルナは再び言葉の途中で口を閉ざしてしまう。そして彼女はさっきまで笑っていた顔を悩んでいるかのような表情に変えて、しばらくした後に苦笑を浮かべながら話し始める。


「もう一人は、その……何というか個性的、というか自信家なコかな? レオ君と同い年で今年から鉄の学び舎に入学したの。今はちょっと……罰則、じゃなくて用事でここにはいないけど、もうそろそろ帰ってくるはずだよ」


「……一体どういう人なんですか?」


「ま、まあ、会ってみたら分かるよ。彼のことだから、レオ君のことを知ったら自分から話しかけてくるって」


 レオ以外にも二人いる男の戦師のうち、片方は何やら問題人物のように聞こえ、詳しく聞こうとした彼だったがルナは苦笑を浮かべたまま答えてはくれなかった。今は鉄の学び舎にいないが、近いうちに帰ってきてその時に向こうから来ると言われたが、今の話を聞いたレオは正直な話あまり会いたくないと思った。


「それよりもさ。レオ君が大量のルリイロカネを見つけた時の話。詳しく聞かせてくれない?」


 戦師であるルナは、レオがルリイロカネを手に入れた出来事に興味があるらしい。レオは前世の記憶を頼りにルリイロカネがあった基地を見つけ出したことだけを隠して、ルリイロカネを見つけた時のことを食事を食べながらルナに話した。


 もうこの時にはレオの中にあった、模擬戦の後に感じていた悩みは消えていたのだった。

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