一人での夕食

「俺、失敗したのかな……?」


 模擬戦が終わってから数時間後。レオは鉄の学び舎の食堂で、一人夕食を食べながらどこか落ち込んだ様子で呟いた。


 今晩レオが注文したのは食堂特製のカルゥ。食堂の利用者の多くが食べ盛りの学生である事から大きく切った野菜が大量に入っていて、使用された香辛料の香りが食欲を誘うのだが、今の彼は何かを考え込んでいてあまり食が進んではいなかった。


 レオが思い出すのは、模擬戦で三体の戦者を倒した後、リアに一体何をしたと聞かれたので正直に雷光破サンダーボルトを使ったと答えた時のことだ。あの時のリアを始めとする、彼の模擬戦での戦いを見た者達の反応は様々であった。


 信じられないと首を横に振る者。伝説の奥義の存在に感動と畏怖で体を震わせる者。……そしてまるで化け物を見るかのような目を向けてくる者。


 リアから聞いた話で雷光破サンダーボルトを使用すれば驚かれるのはレオも予想していた。だがあそこまで驚かれるとは流石に思っていなかったし、化け物を見るような目で見られるのは、正直落ち込んだ。


 前世ではデスという化け物からこの世界を守る為に戦って死んだのに、その来世では自分が化け物扱いされるとは、一体どういう皮肉なのだろうか?


(こんなことだったら正直に雷光破サンダーボルトと言わないで、俺の戦者の特殊機能だと言った方がよかったかな? ……いや、駄目だな。流石にそんな嘘に騙されないか)


 ゆっくりとスプーンを動かして少しずつカルゥを食べながらレオは考える。今さらそんなことを考えても意味なんてないのだが、それでも考えずにはいられなかった。


(それとも雷光破サンダーボルトを使わずに模擬戦をしていた方が……それこそ駄目だな。そうしたら『勝てなかった可能性』がある)


 レオは雷光破サンダーボルトを使わなかった場合の自分の戦闘力がそれほど高くない事を自覚していた。


 前世でレオが経験した戦いはデスとの戦いだけで、その内容は雷装動サンダーボルトによる高速移動で敵の攻撃を回避した後、高火力の雷光破サンダーボルトの一撃を叩き込むというもの。それ以外の戦い方を彼は知らないし、教えてくれる者はいなかった。


 あの模擬戦で戦った三体の戦者は全て、レオの戦者より性能が遥かに劣る素体で、機体性能に任せて雷光破サンダーボルトを使わずに勝てたかもしれない。だがあの三体の戦者は連携を取ってこちらに攻撃を仕掛けてきていたし、それを完全に対応することは戦者同士の戦いの初心者である彼には無理な話であった。


 つまり将来の出世を望むレオがあの模擬戦で確実に勝利するためには雷光破サンダーボルトを使用するしかなく、あの模擬戦の見学者達に恐れられる展開は避けようがなかったということである。


(まあ、これ以上考えても仕方がないし、これからの事はこれから考えよう)


 自分の中で結論を出したレオは、まだ半分程残っているカルゥを食べるべくスプーンを持つ手を動かそうとする。するとその時……。


「ねぇ、隣座ってもいいかな?」


 手に料理を持った女学生がレオに話しかけてきた。


「え……? いいですけど、貴女は?」


「私? 私はラーツ・ルナ。貴方と同じ戦師の学生だよ。よろしくね、シンハ・レオ君?」


 レオの言葉に女学生、ルナは笑みを浮かべて返事をした。

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