素体

 将来の出世のために模擬戦で良い成績を出すことを決意したレオは、リアに鉄の学び舎の校舎を一通り案内してもらった後、自分の戦者がある格納庫へと連れて行かれた。


 格納庫にはすでに、鉄の学び舎の教官だけでなく十数人程のサーラ王国の軍人と思われる者達が集まっており、彼らは格納庫へとやって来たレオにまるで品定めでもするような視線を向ける。しかしレオはそんな視線に気付くことなく、驚いた表情をして周囲を見回していた。


(これがこの鉄の学び舎にある戦者なのか?)


 格納庫にはレオが作り出した戦者だけでなく、鉄の学び舎が戦師の訓練で使用している戦者が数体置かれていた。だが機体の色が白で頭部が獅子という特徴を持つレオの戦者以外は、全て機体の色が灰色で外見も人型であることしか特徴がないという無個性な戦者ばかりであった。


(全部「素体」の戦者ばかりじゃないか?)


 格納庫にある自分の戦者以外の戦者を見てレオは内心で呟いた。


 素体とはルリイロカネが戦者となった時に最初になる形態で、総合的な力量が一定の水準以下の戦師が戦者を作り出すとこの形態となる。


 全身がナノマシンの集合体であるルリイロカネで作られている戦者は、搭乗者の戦師と共に成長する兵器である。最初は素体の戦者は戦師の成長の影響を受けて、戦師の能力を最大限に発揮できる姿へと成長していく。


 レオも前世で初めて戦者を作り出した時もこの素体であった。そこからいくつものデスとの戦いを経験して戦師として成長を重ね、今の頭部が獅子の戦師を作り出せる域にまできたのだ。


 レオは改めて格納庫にある練習用の戦者を見る。自己修復能力を持つ戦者の装甲には傷などは見られないが、土埃などの汚れからこれらの練習用の戦者がかなりの長い期間使われているのが分かる。


 戦者は自らを作り出した戦師以外の成長の影響を受け難く、その上教官や生徒の大人数に使い回されていたら更に戦者の成長は遅くなるだろう。しかしこれだけ長い期間使われていても戦者に全く成長した様子が見られないのはレオからしたらとても信じられないことであった。


 ここに来る前にリアから聞いた前世では戦者の基本技であった雷光破サンダーボルトが奥義扱いである話といい、この格納庫にある戦者といい、レオは現代の戦師のレベルが前世と比べ物にならないくらい低いことを確信する。だがそれは彼にしてみれば非常に好都合と言えた。


 戦師と戦者のレベルがこの国では、レオが実力の一端を見せるだけで国からの注目が集まり、故郷に支援が出来るくらいの権力を得やすくなるだろう。そう考えるとこれからの模擬戦にも気合いが入ってくる。


「レオ。どうやらもうすぐ模擬戦が始まるから、できるだけ早く戦者に乗って準備をしてほしいそうだ。……いけるか?」


「ああ、もちろん」


 模擬戦の為にやって来た軍人達の伝言を伝えに来たリアに、レオは不敵な笑みを浮かべて返事をした。

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