戦師達の理想?
「ちゃんと起きていたようだな」
リアは扉を叩いてすぐに姿を見せたレオを見て満足そうに頷いた。
「リア? 一体どうしたの?」
「これを渡しに来た。ほら」
そう言ってリアがレオに三着の着物を手渡す。その着物はよく見れば、今彼女が着ているのと同じ、鉄の学び舎の制服であった。
「この学園の制服だ。昨日はお前の入学手続きとかで渡すのが遅れたそうだ。……全く、この私にこんな小間使いみたいな真似をさせるなんて、いいご身分だな。流石は自分の戦者を持つ男の戦師といったところか?」
からかうような表情で言うリアに制服を受け取ったレオは軽く頭を下げて礼を言う。
「ありがとう。助かったよ」
「礼はいいから早く着替えろ。着替えたらすぐに行くぞ」
「行くって何処へ?」
レオの言葉にリアは今度は呆れたような表情となって口を開く。
「この鉄の学び舎の案内に決まっているだろう? お前はここに遊びに来たのか?」
リアの言葉にレオは急いで制服に着替えると、彼女の後について鉄の学び舎の建物の中を案内してもらった。その途中でリアは歩きながら後ろにいるレオに話しかける。
「昨日も少し話したと思うが、お前の母親であるシィラ殿はこの鉄の学び舎の卒業生だった。……本当にシィラ殿からここについて聞いていないのか?」
「知らない。義母さんがここの卒業生だってことも、戦師だってことも昨日リアから聞いて初めて知ったよ」
リアに話しかけられたレオは一つ頷いて答えると、自分の知らない鉄の学び舎の学生であった頃の義母の事が気になり、彼女に聞いてみたくなった。
「そう言えばリアは義母さんのことを伝説の女戦師って言っていたけど、昔の義母さんってどんな人だったの?」
「私も、ここで聞いたことぐらいしか知らないが、シィラ殿は本当に優秀な戦師だったらしい。元々は名前も聞いたこともない小さな村出身の平民だったが、ルリイロカネの適性を認められて鉄の学び舎に入学すると、すぐにその優れた才能を開花させたそうだ。
特に優れていたのが戦者の操縦技術で、初めての操縦ではまるで長年戦者を扱ってきたかのような見事な操縦を見せて、模擬戦では全勝無敗。それも同じ学生だけでなく教員も相手にしてだ。話では教員が操縦する三体の戦者を一人で倒したこともあるとか」
そこでリアは一度言葉を切ると、昔の記憶を思い出しながら再び話始める。
「……私は以前、一度だけシィラ殿が戦者を操縦した姿を見たことがある。戦者は基本的に戦師の意志の通りに動くものだが、シィラ殿が操縦する戦者はどの戦者よりも動きがしなやかで力強く、そして美しかった。あれを見て私はあのように戦者を操ってみたいと思った」
(あれ? この反応……もしかしてリアってば義母さんのファン? 昨日、俺が義母さんの養子だって言った時の反応って、もしかしてこれのせい)
僅かに頬を赤くしながら語るリアを見てレオが昨日の彼女の様子を思い出しながらそう考えていると、突然リアは憧れの人を見るような表情を暗くする。
「シィラ殿は鉄の学び舎の卒業後、軍に正式入隊するとすぐに自分だけの戦者を与えられた。私はシィラ殿ならすぐに出世して貴族となるのだと思っていた……。しかしシィラ殿は初めての任務で護衛をしていた貴族と結婚をすると、与えられた戦者も戦師としての権利も何もかも捨ててしまったのだ。そしてその貴族というのが……」
「俺の義父さん、シンハ・ラウマってことか……」
「そうだ」
リアの言葉を引き継いだレオは彼女が頷いたのを見て内心でため息を吐いた。今の会話から察するに、どうやら自分はリアからかなり複雑な印象を抱かれているらしい。
「本当に残念だよ……。シィラ殿だったら戦師達の理想、戦者の奥義『サンダーボルト』に到達出来たかもしれないのに……」
「………ん?」
心から残念そうに言うリアだったが、レオはその彼女の言葉に違和感を覚えたのだった。
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