入学

「知らない天井だ……」


 レオがサーラ王国の王都アルマーンに来た次の日。朝、目を覚ました彼が最初に見たのは、見覚えのない部屋の天井だった。


 寝台の上で横になっていたレオが上半身を起こして周囲を見回す。今彼がいる部屋は実家にあるレオの私室より少し広いくらいで、部屋にあるのは寝台に机、箪笥だけであるが、それらは質素ではあるが質がよくて実家の部屋よりもずっと快適そうだとレオは思う。


「何処、ここ?」


 自分がいる部屋を一通り観察してから呟いたレオは、それからしばらくした後、ようやくここが何処であるのかを思いだす。


「……ああ、そうか。ここは鉄の学び舎だった。俺、昨日入学したんだっけ。……そういえば昨日は大変だったな」


 今いるのは鉄の学び舎の学生が暮らす学生寮で、レオは昨日ここに来るまでの出来事を思い出してため息を吐く。


 昨日、レオとリアを乗せた頭部が獅子の戦者が鉄の学び舎に行くと、校門には大勢の生徒に教員が集まっていた。鉄の学び舎と正反対の位置にあるアルマーンの西門から、姿を隠すことなく戦者を進めていたので情報が伝わっているのはレオも予想していたが、数人の教員が訓練用の戦者に乗って武器を構え警戒しているのには驚いた。


 しかしそこで戦者に同乗していたリアが外に出て、鉄の学び舎の生徒と教員達にレオの素性を保証をしてくれた。流石サーラ王国の大貴族の娘ということもあって、生徒と教員達は彼女の言葉をすぐに信用してレオへの警戒を解いたが、その次に待っていたのは教員達による怒涛の勧誘であった。


 下級とはいえサーラ王国の貴族の一員で、


 千人に一人現れるか否かという男の戦師で、


 しかもすでに自らの戦者を所有している。


 そんな人材を確保しない手はあるはずが無く、鉄の学び舎の教員、特に兵士の訓練をしている教官はレオが何かを言うより先に軍の素晴らしさを説き、鉄の学び舎への入学、あるいは軍への入隊を勧めたのだ。


 そしてレオが元より鉄の学び舎へ入学するつもりで王都へやって来たと告げると、教員達は全員満面の笑みで彼の入学を受け入れて、今いる学生寮の部屋へと案内してくれた。それまで大勢の教員や生徒の視線に晒されていた彼は、ようやく部屋に着いて一人になれると、大勢の人間に見られた溜まった精神的な疲労からすぐに寝台の上で横になり眠ったのだった。


「前世でも注目を浴びることはよくあったけど、あそこまでじゃなかったよな?」


 レオは前世では最年少の戦師ということで、初めて訪れる戦場や基地で注目を浴びていたことを思い出しながら呟く。


「でも学園生活か……少し楽しみかな?」


 気持ちを切り替えてもう一度部屋を見回したレオは、自分が今日から始まる鉄の学び舎での生活に胸を弾ませているのを感じていた。前世は世界中がデスによる攻撃を受けていたせいで学校で授業を受ける余裕などなく、これが彼にとって初めての学園生活であったのだ。


「……ん?」


 レオがこれからの学園生活を楽しみにしていると、部屋の扉を数回叩く音が聞こえてきた。一体誰だろうと思いながら彼が扉を開けると、そこにいたのは昨日同じ戦者に乗って鉄の学び舎まで案内をしてくれたリアの姿があった。

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