リアの案内
「それでは動かしてもらおうか?」
食事を終えたレオとリアは代金を支払って食堂を出ると、レオの作り出した頭部が獅子の戦者の前に立った。戦者の周りには大勢の人が戦者を一目見ようと集まっており、レオ達が戦者の前に立つと今度は二人に周囲の視線が集中した。
「分かったけど、本当によかったの? 代金、立て替えてもらって」
レオが言っているのは食堂で食べたカルゥの代金のことである。食事を終えて食堂を出る時、リアが自分の果実水の代金と一緒に彼のカルゥの代金も支払ったことについてレオが聞くと、彼女は何でもなさそうに答える。
「細かいことは気にするな。元々、お前の食事の邪魔をして強引に頼み込んだのは私だ。その詫びだと思えばいい」
(頼んでいるというより命令しているって感じなんだけど……。まあ、いいか)
レオは気を取り直すと、片膝をつく体勢で待機している戦者に右手で触れ、そこから戦者に自分の意思を伝える。すると戦者の胸部の装甲が展開して操縦室が現れ、それを見たリアを初めとする見物人達が驚きで目を見開いた。
戦者を動かせるのは戦師のみ。レオが触れたことによって戦者が己の操縦室を現したのは誰から見ても明白で、これは彼が戦師であることの何よりもの証明であった。
「これは……!? まさか、本当に……?」
「ほら、動かしたよ。もうこれでいい? 俺はそろそろ行くよ」
呆然と呟くリアにレオはそう言って戦者に乗り込もうとすると、その後ろ姿を見た彼女は慌てて彼に話しかける。
「ま、待て! 待ってくれ! 行くって、一体どこに行くつもりだ!?」
「え? どこって……この王都にある鉄の学び舎って学園だけど? 俺はそこに入学するためにここまで来たんだ」
「っ! だったら! だったら……その、私も乗せてくれないだろうか? 私も鉄の学び舎の学生で詳しい道案内も出来る。……駄目、だろうか?」
レオが自分のよく知る学園に行く予定だと聞いたリアは、今までのとは違う口調で彼に頼み、それを聞いた周囲の人々がざわめきだす。レオはリアの態度の変化や周囲の人々の反応に内心で首を傾げたが、断る理由もなかったので首を縦に振った。
「……別にいいよ。それじゃあ、早く乗って」
「ああっ、分かった! すまない!」
レオの言葉にリアは頬を赤くして頷き、彼と共に戦者に乗り込む。その様子を見て周囲の人々、特に男が羨ましそうな顔となる。
前世から戦者に乗って戦ってきたレオにとって戦者は己の半身であり、それ以上でもそれ以下の存在でもなかったが、現代のラナ・バラタの人々にとって戦者とは力の象徴であり憧れの的で、男ならば一度は戦者に乗って自由自在に操って見たいと夢見るものである。そしてそれがレオの戦者のように、今まで見たこともないくらい美しくて力強そうな戦者ならばなおのことだろう。
多くの人々の羨望の視線を集めながら、レオとリアを乗せた戦者は鉄の学び舎へと向かって歩き出した。それからしばらくしてから戦者の操縦室の中で、恥ずかしそうな顔をしたリアがレオに話しかける。
「無理に乗せてもらってすまなかったな……。私も、今までに何度か戦者に乗ったことはあるのだが、ここまで見事な戦者を見たのは初めてでつい興奮してしまって、な……」
「いいよ。気にしてないって」
自分の戦者を褒められたレオは僅かに上機嫌になって笑いながらリアに返事をすると、いい機会だったので以前から気になっていたことを彼女に聞いてみることにした。
「そういえば……鉄の学び舎って、入学するのに必要な資格とか試験とかってあるの? 義父さんと義母さんには鉄の学び舎に行けって言われただけで、詳しい話は全く聞いていないんだ」
レオの質問に今度はリアが笑いながら返事をした。
「はははっ! そんな心配はいらないさ。確かに鉄の学び舎に入学試験はあるが、男の戦師で、しかもすでに自分の戦者を手に入れているレオだったらそんな試験は免除されるさ。いや、むしろ鉄の学び舎の職員全員がお前に頭を下げて入学してほしいと頼んでくるはずさ」
「ウソ? 本当に?」
「ああ、間違いない」
リアの言葉に思わずレオがそう言うと、彼女は胸を張って断言をした。
そしてリアは言葉は数十分後、鉄の学び舎に辿り着いた時、見事に的中する事になったのだった。
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