両親の薦め

 レオが戦者に乗ってラウマが治める村へ帰ると、やはりというか彼が思った通りに大騒ぎとなった。


 村の人達は、突然山から現れた頭部が獅子の戦者を見ると全員、腰を落とさんばかりに驚いた。若い村人達は敵国から来た戦者かと言って足を震わせながら農具を武器代わりに構え、老人達は山の守り神が現れたと言って拝む始末。しかしそこに身の丈程もある大剣を持ち、今まで見たこともないくらい敵意に満ちた表情をしたシィラが現れた時には、逆にレオの方が驚いてしまったが……。


 そんなやり取りの後、レオが何とか頭部が獅子の戦者に乗っているのが自分で、戦者を手に入れた経緯を説明すると、それまで驚いていた村人達は一転して大いに喜んだ。


『領主様の義息子が戦者を手に入れた』


『レオ様は男であるのに戦師になることができた』


『レオ様はきっと出世することに違いない。そうすればこの村もきっと今以上に豊かになる』


 と、レオが戦師になり戦者を手に入れたことを知った村人達はその日、喜びのあまりお祭り騒ぎとなったのであった。


 そしてレオが戦者を手に入れて村に帰った三日後、彼はラウマとシィラに「大切な話がある」と呼び出されていた。


「俺が王都に……ですか?」


「そうだ。王都には『鉄の学び舎』という学園がある。入学してみたらどうだ?」


 ラウマとシィラの言う大切な話というのは、サーラ王国の王都にある学園にレオを入学させるというものであった。


「鉄の学び舎とは一体どんな所なんですか?」


「鉄の学び舎というのは王家が直々に運営費している学園だ。そこでは政治を始めとする様々な分野を教えていて、軍人の訓練も行っている。サーラ王国の未来を担う人材は全てこの鉄の学び舎から出ているな」


「……なんだか、話を聞く限り俺とは縁が無さそうな気がするんですけど?」


 ラウマから鉄の学び舎の話を聞いたレオは思わずそう呟いた。確かに彼はサーラ王国の貴族であるラウマの養子であるが、ラウマは辺境にある小さな村を治める下級貴族に過ぎず、その養子でしかないレオにはそんな選ばれた人間しか通えない学園に行く理由も資格もないように思えたからだ。


 しかしラウマとシィラはそんなレオの言葉に首を横に振る。


「いや、そんなことはない。レオ、お前は鉄の学び舎に通う資格がある。通わなければならない」


「そう。貴方はすでに自分の戦者を手に入れた戦師なのだから」


 ラウマとシィラの話によると、現在のラナ・バラタは僅かに残っている過去の文明の遺産を利用していて、ルリイロカネもその一つらしい。そしてルリイロカネがもたらす戦師の超人的な身体能力と戦者の戦闘能力は、軍事面において最も重要な戦力なのだとか。


 その為、ルリイロカネを体内に受け入れて戦師となれる適性が者は、鉄の学び舎に入学して軍人の訓練を受けることが義務付けられている。戦師の適性を認められて入学した学生は、授業料が免除される上に優秀な成績を認められれば戦者を与えられ、例え戦者を与えられなくても卒業後はすぐに最低でも軍の部隊長の地位になる事が約束されていた。


 そこまでの話を聞いてレオは、ラウマとシィラが鉄の学び舎への入学を進める理由と、戦者に乗って帰った時に村人達が喜んでいた理由を理解した。


 なるほど、確かにその鉄の学び舎に入学する前から戦者を持っているレオは将来、軍でも高い地位になれるだろう。そうしてレオが権力を得ること出来れば、自分達の村をもっと豊かにしてくれるかもしれないと、村人達は考えたのだ。


 しかしそんな村人達の考えはレオにとっても望むところであった。元々彼が二年の月日をかけてルリイロカネを探し求めたのも、ラウマやシィラを始めとする自分を受け入れてくれた村人達を守る為であり、その為の力が村を豊かにするのに役立つなら願ってもいないことだとレオは思う。


「……分かりました。その鉄の学び舎へ通ってみようと思います」


 そうする事が自分だけでなく、ラウマやシィラを始めとする全ての人々のためになると判断したレオは、王都にある学園への入学を決意するのだった。

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