現在の自分と世界
朝。目を覚ましたレオが最初に見たのは、木製の建物の天井だった。
「もう朝か……。ふぁ……眠いなぁ……」
窓から差し込んでくる陽射しを浴びながらレオは欠伸を噛み殺して寝台から起き上がり、身支度を整えていく。
着物に似ている衣服を慣れて手つきで身にまとったレオは、部屋から出て居間へと向かう。居間にはこの家の主人であるラウマとその妻であるシィラがすでにいて、二人はレオに気づくと笑顔を浮かべて挨拶の声をかける。
「おはよう。レオ」
「おはよう。今日は少し遅かったわね」
「はい。おはようございます。ラウマさん。シィラさん」
ラウマとシィラに挨拶を返すレオであったが、二人はそんな彼の言葉に苦笑を浮かべる。
「おいおい……。そんな他人みたいな呼び方はやめろって言っただろ? 最近治ってきたと思ったんだがな」
「あ……すみません。『義父さん』。『義母さん』。おはようございます」
ラウマに言われたレオは再び挨拶をすると、ラウマとシィラは今度は笑顔で頷いてくれた。
レオはラナ・バラタの地で復活してからすでに三年。現在の彼はシンハ・ラウマとシンハ・シィラの養子となっており「シンハ・レオ」と名乗っていた。
「あれからもう三年か。思えば色々なことがあったな……」
朝食をすませたレオは外を歩きながらこの三年間での出来事を思い出す。
今から三年前、ソキウスとユンファが命懸けで自分を救ってくれたことに涙していたレオは、気持ちを落ち着かせるとラウマとシィラに今の自分には身寄りも帰る場所も何もないことを正直に告げた。するとそれを聞いた二人は、彼に自分達の養子にならないかと言ってきたのだ。
話を聞けばラウマとシィラの二人は、数年前に結婚したが未だに子供に恵まれていないらしい。
ラウマはこの辺りの土地を治める領主であり、その跡継ぎの問題は重要なものであった。その為、二人は子供が授かれるように守護者の森にあるこの土地の守り神……つまりはレオの戦者の元へ祈りに訪れて、そこで蘇生が完了したレオを発見したのだ。
この話を聞いたレオは、ラウマとシィラにソキウスとユンファの面影を見たこともあって、二人の養子になる話を受けたのだった。
ラウマとシィラの養子になってからの三年間、レオは周囲に溶け込めるように行動をした。その甲斐もあって最初は領主夫婦が突然、正体不明の少年であるレオを養子にしたことに戸惑っていた周囲の人達も今では彼を受け入れてくれて、その間にレオも少しずつこの世界について理解することができた。
自分が慣れ親しんだ前の文明はすでに衰退し、今の生活は不便な点が沢山あるけれど、それでもデスの脅威から怯える必要がない世界。
それだけでレオは、デスと必死の戦いを繰り広げた甲斐があったと思った。そしてそれと同時に、ソキウスとユンファから貰った新しい命を使い、この平和な世界で精一杯生きていこうと思うのだった。
「……力が欲しいな」
新しい人生を生きていこうと決めたレオは一人呟いた。
確かに今のラナ・バラタは平和かもしれないが、それはデスがいた過去と比べてのものだ。確かにデスは既に滅びてもういないが、それでも害獣や盗賊、国同士の戦争など、まだ様々な危険があった。
そんな危険からラウマやシィラを初めとする、自分を受け入れてくれた人々を守りたいと考えたレオは、山の向こうへと視線を向けた。
「……見つかるかどうかは分からないけど、探してみる価値はあるか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます