森の中心にあるもの

「落ち着いた?」


「……はい。お騒がせしてすみませんでした」


 自分の身に起きた出来事に混乱していたレオだったが、しばらくすると気持ちが少し落ち着き、心配するようにこちらを見てくるユンファによく似た女性にそう返事をした。


「へぇ? 中々しっかりしているじゃないか。まだ十歳くらいなのに偉いな」


(いえ、俺は今年で十五なんですけど……)


 レオの返事を聞いてソキウスによく似た男が感心したように言い、それにレオは反論したかったが何も言わないことにした。今のレオの姿は十歳前後の子供のもので、十五歳だと言っても信じてもらえないと思ったからだ。


「そう言えば自己紹介がまだだったね? 私はシンハ・ラウマ。この辺りの地を治めているサーラ王国の貴族だ。……まぁ、貴族と言っても下級なんだけどね。そして彼女が私の妻であるシンハ・シィラだ」


「シィラです。よろしくね」


 ソキウスによく似た男、ラウマが自己紹介をするとユンファによく似た女性、シィラもレオに挨拶をする。それに対してレオは、目の前の二人がやはりソキウスとユンファとは別人であることに驚きながらも返事をする。


「は、はい。俺の名前はレオと言います」


「レオ君か……。それじゃあレオ君? 早速だけど聞いていいかい? 君は一体何処から来たんだい?」


「何処からって……。その、前にいたのは宇宙でした……」


 ラウマからの質問にレオは意識を失う前、宇宙空間でデスと戦っていた時のことを思い出しながら答えるのだが、その言葉にラウマとシィラの二人は首を傾げた。


「ウチュウ? そんな名前の村や街、サーラ王国にあったかしら?」


「そのウチュウという所が君の故郷なのかい?」


(宇宙を知らない?)


「いえ、宇宙というのはなんていうか……。とにかく俺の故郷でも村の名前でもありません」


 シィラとラウマの言葉にレオは疑問を覚えながら答えるのだが、それを聞いて二人の夫婦は困惑した表情となる。


「ウチュウは君の故郷じゃない、か。だったら君はどこの生まれなんだい?」


「……分かりません」


 ラウマの質問にレオは首を横に振って答える。


 レオの言葉は嘘ではない。彼が物心がついた頃にはラナ・バラタの国や都市のほとんどがデスによって破壊されており、自分がどの国で生まれたのか分からなくなっていたのだ。


「分からないって……」


「あの、ラウマさんとシィラさんが俺を見つけてくれたんですよね? ここに来る前の俺って一体何処にいたんですか?」


 ますます困惑した表情となるラウマに今度はレオが質問をすると、ラウマとシィラはお互いの顔を見合わせてやがて頷き合い、再びレオの方を見る。


「そうだな。君がいた所へ行けば何か分かるかも知れないな。行ってみるか?」


「お願いします」


 レオは頷き、ラウマとシィラの二人に自分が見つけられた場所へと案内してもらうことになった。




 ラウマとシィラがレオを見つけたのは、二人の家から歩いて二十分程の位置にある森の中であった。


「凄い……。こんなに緑豊かな場所があったなんて……」


 レオの知るラナ・バラタでは人類とデスとの戦いにより都市だけでなく自然も破壊されており、今いる森のような緑豊かな場所に入るのが初めてなレオは驚いた表情となって周囲を見回していた。


(自然の森なんて映像記録でしか見たことがない。それに外に出て気づいたけどラウマさん達の家や他の家、全部木製の家だったな。今時そんな所、見たことも聞いたこともない……本当にここは何処なんだ?)


「森がそんなに珍しいの?」


「マジかよ? 一体どんな所で暮らしていたんだ? ……と、着いたぞ、レオ君」


 頭の中で色々考えながらも森を珍しそうに見ているレオの様子にこちらも驚いた表情となっていたシィラとラウマだったが、目的地に辿り着くとラウマがレオに呼びかける。


 目的地は森の中心に位置する場所で、そこには一本の樹も生えていなかったのだが、代わりに一つの「あるもの」が存在していてそれを見たレオは目を見開いた。


「あれは……戦者!?」


 森の中心にあったのは一体の戦者であった。

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