目覚め

 地球から遠く離れた銀河にある惑星ラナ・バラタでは、かつてデスと呼ばれる存在との戦いがあった。


 デスとは人の影の姿をした精神体を作り出し命あるものを殺す意思を持つ星で、デスが一体何処から生まれて来て、何故命あるものを殺してきたのか知る者はいない。


 ラナ・バラタの人類は長い戦いの末にデスを破壊することに成功した。しかしその代償は極めて大きいものであった。


 デスによって人類を初めとするラナ・バラタの生物の多くが殺され、人類が築いた国や都市のほとんどが破壊された。そして人口が激減した人類にはデスによる損害を回復する力は無く、高度に発展していた文明は瞬く間に衰退することとなる。


 文明が衰退した後、人類は長い期間をかけて新たな文明を築くのだが、その頃には前の文明は人類にとって完全な過去となっており、デスとの戦いも単なるおとぎ話という認識になっていた。


 そしてラナ・バラタの人類とデスとの戦いからすでに数百年。サーラ王国というとある小国の辺境で、実際のデスとの戦いを知る少年が目覚めようとしていた。




「……ここは?」


 目を覚ましたレオが最初に見たのは、見覚えのない木製の建物の天井であった。


 今レオは寝台の上で横になっており、彼はぼんやりと天井を見つめながら自分に何が起こったのか思い出そうとする。


「確か俺は……宇宙空間でデスの本体に全力の雷光破サンダーボルトを叩き込んで、それから……」


 そこまで呟いたところでレオは意識を失う直前の記憶を完全に思い出し、発条仕掛けの人形のように上半身を起こす。


「そうだ! デスは!? ソキウス先輩とユンファ先輩は!?」


「あら? 目を覚ましたのね」


 記憶を思い出したレオが半ば混乱して周囲を見回していると、彼がいる部屋に一人の女性が入ってきて、レオは自分の前に現れた女性を見て思わず驚いた表情となる。


「え……? ユンファ、先輩?」


 部屋に入ってきた女性は、レオと共に戦った戦師の女性、ユンファによく似ていた。髪や瞳の色等の違いはいくつもあるが、それでも顔立ちや全体的な雰囲気がユンファに似ており、彼女の家族や親戚だと言われたら信じてしまいそうなくらいであった。


「ユンファ? 一体誰のこと?」


「騒がしいけど、どうしたんだ? ……ん? ああ、起きていたのか」


「ソキウス先輩?」


 ユンファに似た女性がレオの言葉に首を傾げていると、彼女の後ろから今度はソキウスによく似た男が現れる。こちらも髪や瞳の色が違うが、顔立ちや全体的な雰囲気がソキウスに似ていた。


「ソキウス? ……悪いけど知らない名前だな」


「ソキウス先輩とユンファ先輩じゃない? ……って、アレ?」


 ソキウスとユンファによく似ている二人の男女の姿に、再び頭が混乱してきたレオは額に右手を当てるのだが、そこで彼はある違和感に気付く。


(おかしいな? 俺の手……こんなに小さかったっけ?)


 自分の右手が記憶にあるのより小さく見えたレオは、右手だけでなく左手に両足と自分の体を見て確信を得る。


 右手が小さく見えたのは決して気のせいではなかった。レオの体は以前より一回り小さく、正確に言えば十歳前後まで若返っていたのだ。


「……………どういうこと、コレ?」


 見覚えのない場所。知り合いによく似ている二人の男女。そして若返った自分の体。


 予想しなかった出来事を立て続けに直面したレオは、呆然とした表情で一人呟くことしかできなかった。

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