決着

 すでに半数の仲間を落とされ、残された全戦力でデスの本体へ特攻をしかける勝負に出た戦者の軍団。そしてそれを抹殺すべく今までの比ではない人の影の姿をした精神体を作り出すデス。


 ソキウスとユンファと一緒にデスへと向かうことにしたレオは、あれからどれだけの時間がたったのか、もうすでに分からなくなっていた。


 もう数時間はたったか? それとも数分? まさか数十秒?


 四方八方から襲いかかってくる無限とも思える人の影の姿をした精神体を避けながらデスの本体へと向かうのは至難の技で、レオは一秒がひたすら長く感じて、その顔には珠のような汗が大量に浮かんでいる。


『っ!? レオっ! 危ねぇ……ぐぅっ!』


 肉体的にも精神的にも疲労していて注意力が散漫になったレオの戦者に精神体の一体が襲いかかろうとした時、ソキウスが彼を庇って代わりにソキウスの戦者の右腕が斬り落とされた。


「ソキウス先輩!?」


『俺のことは気にするな! お前は前だけ見ていろ』


『ええ、この中で一番雷光破サンダーボルトの出力が高いのは貴方なんだから、守りは私達に任せて貴方はデスを破壊することだけを考えなさい』


「……!」


 戦者の右腕を斬り落とされたソキウスにレオが声をかけるがソキウスは何でもないと即答し、続けてユンファが今度はレオに声をかける。見ればユンファの戦者にも、ソキウス程ではないが機体の所々にダメージがあり、三人の中で一番ダメージが少ないレオは今まで自分が二人に守られていた事に気づく。


「ソキウス先輩! ユンファ先輩! あの……!」


『見えてきたぞ!』


 レオがソキウスとユンファに何かを言うよりも先にソキウスが声を上げ、その言葉にレオがまえをみるとそこには紫色の炎に包まれた巨大な彗星、デスがあった。紫色の炎からは黒い煙のようなものがいくつも立ち上っていて、その煙が人の影の姿をした精神体となってこちらに向かってくる光景は酷く不気味に感じられた。


『レオ! 私とソキウスが道を作るわ! その隙に貴方はデスの本体を!』


『おいしいところを譲ってやるんだ! しくじるんじゃねぇぞ!』


「……! はい!」


 ソキウスとユンファの言葉にレオが頷いて返事をすると二人の戦者が前に出て、こちらに迫りくる精神体の群れに自らが作り出した光の武器を振るう。


『オラァ! 雷光破・朱槍天震刃サンダーボルト!』


『喰らいなさい! 雷光破・霊斧豪腕撃サンダーボルト!』


「今だ!」


 ソキウスとユンファの最大の技によってこちらに迫っていた精神体の大部分が一瞬で消滅し、レオは二人が作ってくれた「道」を通りついにデスの目前まで到達した。


 周囲にはレオと同じく仲間の協力を得てここまでやって来た戦者が数体いたが、レオはそれらに構うことなく自分の中で最も強力な技を放とうとする。


「これで終わらせる! 雷光破・強弓千矢群サンダーボルト!」


 レオの戦者が作り出した光の弓、そこから放たれた千本の光の矢はデスの本体へと突き刺さり、その巨大な岩の体を貫いた。そして自分が放った千本の矢だけでなく、他の戦者が放った光の武器もデスに命中したのを確認した瞬間、レオの意識は光に包まれた……。






『………ソキウス。生きてる?』


「ああ……。辛うじてだがな……ゲホッ」


 ユンファの言葉に答えたソキウスは、返事をしてすぐに大量の血を口から吐き出す。


 今のソキウスは全身を負傷して血を流しており、特に腹部には何かで貫かれたような大きな傷を負っていた。そして彼に通信を送っているユンファもまた似たような状態であった。


 結論から言えばレオを含む数人の戦師達はデスの本体の破壊に成功した。


 レオ達が放った雷光破サンダーボルトは呆気ないほど簡単にデスの岩の体を貫き破壊したが、破壊された瞬間デスは大爆発を起こしたのだ。爆発の衝撃と周囲に放たれたデスの破片は戦者の機体を破壊し、戦者に乗っていた戦師に大きな傷を負わせた。


 それはデスの最後の抵抗であり、ソキウスとユンファの戦者もデスの破片に貫かれた。機体の傷はすでに自己再生機能ですでに修復されているが、本人達の傷はルリイロカネにより身体機能を強化されている事で何とか生きているという程深く、このままでは命を落とす危険性が高い。


 デスとの戦いはこれで終わった。しかし戦いに生き残ったのはソキウスとユンファを含めても数えるほどしかおらず、その生存者達も戦者のダメージが大きすぎるため、生きてラナ・バラタへ帰れる可能性はあまりにも低かった。


「なあ、レオはどうなんだ?」


『……聞かなくても分かっているでしょ? この子は、もう死んでいるわ』


 ソキウスの質問にユンファは僅かに顔を歪ませて答える。二人の戦者のすぐ近くにはボロボロとなったレオの乗る戦者の姿があるのだが、そこからは生体反応が感じられなかった。


 デスを破壊したレオは最も近い位置からデスの爆発を受け、爆発の衝撃を受けた上にデスの破片に体を貫かれた彼は命を落とした。むしろこうして戦者の機体が残っていて、遺体があるだけでも奇跡的だと言える。


「そうかよ……」


 ユンファに言われ、改めてレオが死んだことを確認したソキウスは悔しそうな、それでいて今にも泣き出しそうな表情となるが、すぐに何かを思いついた顔となってユンファに話しかける。


「そういえばレオの戦者……機体はまだ生きているんだよな? だったら『輪廻転生システム』が使えるんじゃないか?」


 戦者には搭乗者である戦師が死亡した際、自らの自己再生機能を与えて復活させる非常用のシステムがある。システムの効果は劇的であり、戦者の操縦室の中で原型を留めないくらい破壊された戦師の体を再構成して復活させるくらいだ。その事からソキウスはこのシステムのことを「輪廻転生システム」と呼んでいた。


『輪廻転生? ……ああ。貴方の言いたいことは分かったわ。でも無理ね。あのシステムは戦者を構成するルリイロカネの全機能を使うから、周囲が安全な環境と戦者が判断しないと発動しないと聞いたわ。分かる? こんな周りに空気も何もない「危険」な宇宙空間ではシステムは作動しない。ラナ・バラタの地上に戻れば作動すると思うけど……」


 そこまで言ってユンファは口を閉ざした。今の自分達にはラナ・バラタに連絡を取れる手段が無く、向こうもこちらを迎えに行く余力が無いことを理解しての沈黙であった。


「……そうかよ」


 ソキウスは沈黙するユンファの顔をしばらく見た後、自分の戦者を操作してレオの戦者を抱き上げる。そして彼方にある自分達が生まれた星、ラナ・バラタへと視線を向ける。


『ソキウス? 貴方、何を……?』


雷装動サンダーボルト


『なっ!?』


 怪訝な顔をするユンファの声、そして全身から感じる痛みを無視してソキウスは雷装動サンダーボルトを発動してラナ・バラタへと跳躍をする。それを見てユンファも雷装動サンダーボルトで彼の後を追う。


『ソキウス!? 一体何をするつもり?』


「決まっているだろ? こいつをラナ・バラタに返すんだよ。そうしたら輪廻転生システムが発動してレオも復活するかもしれないからな」


 ソキウスの言葉を聞いたユンファはまず最初に「無茶だ」と思った。確かに雷装動サンダーボルトの加速ならばラナ・バラタに辿り着くことは出来るが、大気圏突入や地上の着地など問題は多くあって、レオの戦者を無事にラナ・バラタへ送り届ける確率は非常に低いだろう。


(でもソキウスは実行するのよね)


 ソキウスを見てユンファはそう直感した。恐らく彼は自分を盾にしてでも、本当の弟のように可愛がっていたレオをラナ・バラタへ送り届けようとするだろう。


 そしてそこまで考えたところでユンファも決心する。


『……分かったわ。私も手伝うわ。レオを守る盾はもう一つあった方がいいでしょう?』


 ソキウスの戦者に自分の戦者並ばせたユンファに、ソキウスは若干意外そうに話しかける。


「いいのか、ユンファ?」


『構わないわ。どうせあのままだと宇宙で死ぬだけだったし。……それに私の弟も、生きていたらこの子と同じくらいだったからね』


「ユンファ、お前、弟がいたのか? 聞いてないぞ」


『聞かれなかったらね。……ほら、急ぐわよ』


「ああ……!」


 そこでソキウスとユンファの会話は終わり、二人の戦者はレオの戦者を支えてラナ・バラタへ向かう速度を上げた。




 それから数時間後、ラナ・バラタの夜空に一条の流星が流れた。






「……周囲の環境の安全を確認。システムを起動。搭乗者の蘇生行動を開始」


「問題発生。機体を構成するルリイロカネの死滅が甚大。機能の低下により搭乗者の蘇生が失敗する可能性大」


「予備システムを実行。ルリイロカネの増殖を含めた長期間の蘇生行動を開始」

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