デス

 戦者は全高が七メートルから八メートルあり、その胸部に操縦室がある。操縦室の中は一人だけが座れる操縦席が一つあるだけの球状の空間で、戦師が中に入って外壁を閉じると操縦室の壁が外の景色を映しだすようになっている。


「戦者って宇宙でも活動できるんだな……」


 戦者に搭乗しているレオは操縦室の壁が映しだす景色を見ながら呟いた。彼の視線の先にはどこまでも広がる宇宙の闇と無数の星々の光、そして青く輝く惑星ラナ・バラタがあった。


 そう、今レオが乗っている戦者は宇宙にいた。


『おいおい、レオ。お前、今更何を言っているんだよ?』


 レオがラナ・バラタを眺めながら呟くと、彼の乗っている戦者に別の戦者が近づいてきてそれと同時に若い男の声が聞こえてきた。


「ソキウス先輩」


『戦者は例え宇宙だろうと深海だろうと、機体を作っているナノマシンがすぐに適応して問題なく活動できる。戦者に初めて乗った時に言われただろ?』


 レオの戦者に近づいてきた戦者に乗っている戦師、ソキウスが笑いながら言うと、そこに新たな戦者が近づいてきた。


『二人とも。無駄話はそれくらいにしておきなさいよ。そろそろ作戦予定時間よ』


 新しく聞こえてきたのは若い女性の声。それは新しく近づいてきた戦者に乗っている戦師の声で、レオはこの声もよく知っていた。


「ユンファ先輩」


 ソキウスとユンファ。この二人は数年前から何度もレオと共にデスと戦っていて、レオは歳上という事から二人の事を「先輩」と呼んでいた。


『そう固いこと言うなよ、ユンファ。……それにしてもよくこれだけ集まったものだな』


 ソキウスはユンファに声をかけると周囲を見回した。周囲の宇宙空間には、細部は違うがレオ達が乗っているのと同じ戦者が数多く浮かんでいた。その戦者の数は軽く百を超えていて、デスと対抗するためにラナ・バラタの人類が持てる技術の全てを集めて作った兵器である戦者がこれだけ揃っているのは圧巻であった。


 しかしユンファはソキウスの言葉を否定する。


『これだけ『しか』集まらなかったのよ。ここに集まった戦者は私達のを含めて二百十九体。でもこれまでのデスとの戦いで死んでいった戦師達の数はその倍以上……。ここに集まっているのが正真正銘ラナ・バラタ最後の戦力なのよ』


『……分かっているよ、そんなことは。それよりもレオ、お前いいのか?』


 ソキウスは先程より少し沈んだ声でユンファに返事をすると、話題を変えるようにレオに話しかけた。


「いいって、何がですか?」


『決まっているだろ、この戦いだよ。今回の戦いは今までの比じゃねぇ。きっと誰も生き残れないぞ。……死ぬぜ? 俺達も、お前も』


 レオに話しかけるソキウスの声には彼を心から心配している響きがあった。


 この場に集まっている者で……いや、ラナ・バラタに生きる者でデスに家族や友人といった親しい者を殺されていない者は皆無と言っていい。そしてソキウスはデスに両親とまだ幼かった弟を殺されており、彼がレオに死んだ弟の姿を重ねている事を、ユンファとレオ本人も薄々だが気づいていた。


「……ええ、分かっています。でも俺はこの戦いから引く気はありません」


 レオは自分を心配してくれているソキウスに内心で頭を下げてから自分の意思を口にした。十歳の頃にデスに両親を殺され、十二歳で才能を認められて戦師になった彼は、デスを倒して自分と同じ境遇の人間を少しでも減らすことを心の支えにしてきたのだ。


『……そうか。じゃあ、俺が言えることはないな。……死ぬんじゃねぇぞ』


『ソキウス。レオ。時間よ』


「………!?」


 ソキウスとユンファが言うのと同時に、レオの戦者の操縦室内部に警報が鳴り、前方の画面に遠くの景色を拡大した小画面が浮かび上がる。そしてその小画面を見てレオは表情を強張らせた。


「これが……デスの『本体』……!」


 小画面の中に映っていたのは、小さな島程の大きさで表面に毒々しい紫色の炎を纏っている彗星であった。


 この禍々しい光を放ちながら宇宙の闇を翔る星こそがデスの正体。


 デスは自らの意思を持つ彗星で、これまでにも無限の宇宙を旅する途中、生物が棲まう惑星を見つける度にその惑星の全ての生物を例外無く絶滅させてきた。そしてこれまでラナ・バラタで現れてきた人型の影は、デスが生物を殺す為に産み出した端末のような存在であったのだ。


 この事実が分かるのがあと一年遅ければ、ラナ・バラタの人類はデスに対抗する為の戦力を今まで戦ってきた人型の影、いくらでも代わりが用意できる端末相手に消費してしまい、結果としてデスを破壊する決定力を失って滅亡していただろう。

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