第84話 募る想いを
波の音が静かに響く。
鳥の鳴き声、木々が揺れる音。
全てが鮮明に聞こえる。
「もう1時間か·····」
小倉がユウキを待ち始めてから、1時間が経った。
もう半分は、諦めてしまっている。
「来ないのかな」
疑心暗鬼になってしまう。
青すぎる空に、少し苛立ってしまう。
「ユウキ·····」
待っている時間でさえも、今は──。
「馬鹿! もう少しスピード落とせよ!」
「飛ばしていくぞ!」
「おえぇぇええ」
ガタガタの道ですら、猛スピードで走っていく。
後ろから、嘔吐している声が聞こえる。
「ねぇ、吐かないでよ! ウザイって」
「仕方な·····、げぇぇぇぇええ」
「ジジイ! ちょっと止めろよ!」
ユウキは、車を端に停めさせた。
溜まっていたストレスを、ここで吐き出しておく。
「あんなに飛ばす必要あるか?」
「急いでるんだろ? だから·····」
「限度を考えろよ、着いた時には干物みたいになってるよ」
ユウキも若干の気持ち悪さを感じる程の、車のスピード。
酔っぱらいが耐えられる訳がない。
「あのなぁ、見ろよあんたの娘を」
胃の中のものを全て吐き出したのだろう。
疲弊していながらも、なんだかスッキリしたような表情だ。
「事故ったら大変だからさ、安全運転で頼むぜ」
「よし、任せろ」
俺たちの命の手網を握るのは、この爺さんだ。
「あと20分くらいか?」
「そうだな」
時間はかかってしまっているが、元々の時間よりは早い。
問題は、まだ待ってくれているかだ。
「あいつが根気よく待てるとは思えないからな·····」
待たせている側のセリフでは無い。
いち早く向かうのであった。
「あいつら平気かな·····?」
「ユウキと小倉さん?」
小森と凌太は、自由時間などどうでもよかった。
2人の動向が気になる。
「なんも音沙汰無しでしょ?、気になるわ」
「あいつなら大丈夫だろ」
凌太は、親友のユウキを信じている。
それは小森も同然。
「風花ちゃんも不器用だからなー」
2人の事をよく知る親友は、願い続ける。
「止めていいよ! ここら辺だ」
それから15分後、ユウキはやっと到着していた。
「ありがとな、爺さん」
「おう、頑張ってこいよ」
簡単に別れを済ませ、ユウキは1人で向かう。
足がガクガク震えている。
緊張しているのだ。
「心臓が鳴り止まねぇ」
心がふわふわして、自分ではないようだ。
緊張など全て押し殺して、階段をかけ登る。
「よぉ、だいぶ待たせたな」
「ユウキ·····」
登った先には、想いを寄せる彼女が居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます