第85話 被害妄想激しい系の彼女はいかがですか?

「よぉ、だいぶ待たせたな」

「·····遅いわよ」


ここまで随分かかった。

何度、遠回りをしただろうか。


「俺とお前はまぁ、色々とあったな」


まず初対面が最悪だった。

初手で通報されるという、稀な出会い方をした。

でも今思えば、それも運命という奴だろう。


「俺の社会的地位が、無くなりそうになったりした」


一度はクラスで孤立しそうなった。

ていうか孤立した。


「·····そんな事もあったわね」

「俺は忘れちゃいねぇぜ、全部な」


今でも全てを鮮明に思い出せる。

目を閉じると、思い出が色づいて動き出すのだ。


「悩んでいる時には、お前が心配してくれたりしたな」


俺は知ってる。

こいつが誰よりも他人を見ている。

だから俺にも助言をくれたり、心配してくれたんだ。


「体育祭では、2人で二人三脚だったな」

「失格したあれね」


練習からずっとピリピリしていた。

殺伐とした雰囲気で臨んだ本番。

俺の反則行為により、失格となった。


「初めてのクラスの集まり」


あれが最初で最後だった。

もう二度と誘われないだろう。


「そんで色々あって夏休みだ」

「ずっとそんな事を語っていくの?」

「聞いてろ」


この2人にとってのターニングポイントである、夏休み。


「祭りでお前が迷子になったりな」

「あれは反省しているわ」


そんな事はどうでもいい。


「あの時に2人で見たよな、花火を」


この先に何があっても、色褪せることはないだろう。

あの時の気持ち、想いを。


「あの時に、初めてお前が名前で呼んでくれたな」


口調も崩れていた。

俺はその時に感じたんだ。


「こんなに綺麗な子が居るんだって·····」


俺は花火なんて全く目に入らなかった。

ずっと隣の彼女に目を奪われていた。


「ずっと俺が壁にぶつかった時に、側にいてくれた」

「·····」

「俺はお前の事が──」

「待って」


このままかっこよく決めようと思っていたのに。


「お前さ、ここで止めるとか有り得ねぇぞ」

「わ、私も、あなたに言いたい事があるの·····」


2人だけの時間が流れる。


「あの日に、あなたは私を一人にしないって言ってくれた」


ずっと一人だった私に、そんな言葉をかけてくれる人なんて居なかった。


「あの言葉がすごく嬉しかった」


彼の言葉に嘘はないと、私は知っていたから。

常に真っ直ぐで、全力な彼だから、私はいつしか心を奪われていたのだろう。


「──私は貴方が好き」


偽りのない真っ直ぐな気持ちを伝えた。


「はぁ、先越されちまったか·····」


こういうのは男からだろ。


「んんっ、じゃあ改めまして」


どんなときも、思い出すのはいつも彼女だった。

きっとこれからもだろう。


「──俺も好きだ」


濁りのない、綺麗な言葉で伝えた。

緊張で声が震えて、不格好かも知れない。

でも、それが俺だ。


「晴れて俺たちは、両想いか」

「わざわざ言わなくてもいいでしょ!」


きっとこれからも、関係は変わらないままだろう。


「被害妄想激しい系の彼女はいかがですか?」


今の俺なら胸を張って言える。

最高だと。


























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