第83話 親も親なら子も子だな

「なんで君が、わしの娘の携帯から·····」

「爺さん、さっさと来てくれ! 娘さんが倒れてる」

「すぐに行く、場所はどこだ」


場所を伝えたら、数分で来るといい、電話は切れた。

その間、俺は身動きが取れない。


「一歩間違えたら、俺がこうなってたな」


あと少したっていたら、自分がこうなっていたかもしれない。


「てか、あの娘さんなのか·····」


こんな再会とか、ちょっと可哀想だ。

だが、これを気に仲良くなって欲しい。


「娘はどこだ!」


数分後、爺さんが、ワイルドな車に乗って来た。

装甲車みたいな奴だ。


「この人なんだけど·····」

「間違いない! わしの娘じゃ」

「良かったな、感動の再開で、それじゃ」


走りを再会しようとするも、すぐに止められる。


「どこに行くんじゃ、君もこうなってしまうぞ!」


誰がいつ倒れてもしょうがない状況にある。

次は俺なのかも知れない。


「俺は、これから行かなきゃ行けないとこがあるんだ」

「ダメだ、娘の恩人を行かせる訳には行かない」

「さっさと娘さんを、病院に連れていった方がいいんじゃないか?」


命は大丈夫だろうが、すごく辛そうだ。


「それはそうじゃが·····」

「こんな所で道草食ってる場合じゃねぇんだよ! 俺はもう行くぞ」


俺は勢いよく、走り出した。

後ろは振り返らない。


(じゃあな、爺さん)


娘さんの無事を祈って、俺は走り出した。


「おーい! 待てい」

「なんだよ」


車で後ろから追いかけてきた。

パンクさせてやろうかな。


「君はどこに行くんだ?」

「展望台に·····」

「乗せていってやる」

「娘さんは?」


こいつ、娘の事は後回しかよ。

だから縁を切られんだよ。


「娘は·····、寝ているだけだった」

「はぁ?」


酔っ払いかなんかかよ。


「めちゃめちゃに酒の匂いがしたんじゃ」

「馬鹿じゃねぇの? じゃあなんであんな所に居たんだよ」

「潮風を浴びたかったの!」


後ろから、酒臭い女が言った。

ほぼおっさんだ。


「俺がこいつを助けた時間は?」

「結果論では無駄だったな」

「多分だけどさ、この人ダメ人間だよ」


昼間に酔いつぶれているとか、浮浪者のおっさんくらいだろ。


「爺さん、こんな再開で良いのか?」


俺は聞いてしまった。

10年も疎遠だった娘と、最悪の形での再開で、一体どう思っているか。


「サイコーじゃ、親も親なら子も子だな」


すごい、こんなピッタリの意味で使ってるよ。

やっぱ血筋ってあるんだな。


「嫁は普通なのか?」

「ん? 昔はスロットに明け暮れてたよ」

「馬鹿一家じゃねぇかよ」


この親にしてこの子あり。

親って大事だな。


「喋ってる暇は無いんだろ?」

「おう、ちょっくら頼むぜ」


思わぬ幸運。

野垂れ死なずにすんだ。


「待っててくれよ·····」

















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