第80話 ぎこちのない2人きりの夜

「·····」

「·····」


真っ暗な部屋に、ただ2人の呼吸音だけが響く。

同じ布団で背中合わせで寝ている。

互いの体温を直に感じる。


「なんか·····、緊張するな」


女子と同じ布団で寝るなんて初めてだ。

肩と肩が触れるだけで、ドキッとする。


「·····」

「·····」


再び沈黙の時間が流れる。


「寝た?」

「まだ、全然寝れないわ」


修学旅行では、先に寝た方が負けみたいな所はある。

多分、今はお互いに色んな意味で緊張してるからだと思う、


「色々とあったもんな·····」


沖縄では、本当にたくさんのことがあった。

こんなに濃い2日間はそう無い。


「·····一つ聞いてもいい?」

「いいけど」

「どうして小川さんを振ったの?」

「どうしてって·····」


こいつは空気が読めてないな。

だって今日だよ? 多少なりとも傷ついてるでしょ俺も。


「単純に、俺の心には違う子が映ってた」

「どういうこと?」


目をつぶると、一番に思い浮かぶ存在。

それがユウキは美月ではなかった。


「簡単に言えば、違う子が好きってことだ!」


恥ずかしいから言わせないで欲しい。

プライバシー保護法を使っちゃうぞ。


「ふーん、誰?」

「やっと修学旅行らしくなってきたな」

「話を逸らさないで」


どんなに投げようとしても、道を塞がれる。

もう逃げ道は残されていないらしい。


「じゃあお前は?」

「寝ましょ」

「絶対に逃がさねぇぞ」


俺は体の向きをぐるっと変えて、小倉の方に顔を向けた。


「お前が言えば、俺も言ってやるよ」


正直に言うと、俺はまだボヤついている。

自分でもまだ分からないのだ。


「そんなの言えるわけないでしょ!」

「居るんだ」

「はっ、しまった·····」


このまま聞いてたら、いつかポロッと言うぞ、こいつ。

でもそんなんじゃつまらない。


「好意寄せる人くらいみんないるから平気だよ」

「よそはよそ、うちはうちなの」

「やめろ、よく母さんが言う奴」


全国の子供たちは、この言葉に言いくるめられて、ゲームを買って貰えない。

禁止用語にした方がいい。


「でも、あなた最近モテてるよね」

「モテ期来てるな」


やっと追いついて来たって感じかな。

俺の魅力に。


「あのさ·····、明日予定ある?」


突然、しおらしい声で聞いてきた。

突拍子が無かった。


「俺?」

「そう」


予定がないと言ったら嘘になる。


「もし相手が居なかったらだけど·····、一緒に回らない?」

「相手か·····」


相手も一応、先に先客が居る。

俺はどうすれば良いんだ?


「もし良かったら、この前の展望台で待ってる」

「おう·····」


その夜は一睡も出来なかった。

ずっと考えていた答えも出なかった。



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