第59話 タコ星人参上!

「はぁ、文化祭なんて回れないしな·····」


現在、ユウキは指名手配の如く先生に追われている。

捕まれば大変なことになる。


「誰か来ないかなー」


ユウキは携帯の電源切れで、連絡は取れない。

ひとまず安全地帯になった、この教室から出るためには、手助けが必要だ。


「·····御影君? 開けてちょうだい」

「こ、この声は小倉か?」

「そうよ、先生に見られたくないから早くして」


本当の指名手配犯みたいだ。

ちょっとワクワクする。


「これだけ渡しに来たのよ、みんなあなたが居なくて困ってるわよ」

「それはすまんと言っといてくれ」


小倉から渡されたのは、ユウキの没にされたタコのコスチュームだった。

もちろんヌメヌメしている。


「うげぇ、気持ちわりぃなコレ」

「それをあなたは小川さんに着せてたのよ」

「ゴメンな、美月」


自分が着る立場になると分かる。

この気持ち悪さ。

ピタッとしたサイズ感もそうだが、やはりこのヌメヌメが最悪だ。


「これで変装は出来たわね」

「どこがだよ!? むしろ目立つわ!」


この気持ち悪さは、目立つ。

むしろ罪が増えそうな気もする。


「私はもう行くから、健闘を祈るわ」

「お、おう」


健闘を祈るって、俺は勇者かよ。

しょうがないので、このヌメヌメ衣装で出るしかない。


「後ろからだと分からないしな·····」

「キャー、変態!」

「気持ち悪い!」

「えっ!?」


外に出るや否や、女子生徒たちが阿鼻叫喚。

泣き出す子供も居た。


「先生ー、助けて!」

「ま、まずい·····」


気づいた時には、とっくに遅かった。

既に先生に囲まれていた。

そこにはもちろん怖い先生もいた。


「御影·····、やっと見つけたぞ」

「にょ、にょろにょろー、タコ星人だにょーん」


ここは別人になりきる作戦で乗り越える。


「バカにしているのか! 御影!」

「すいません!」

「絶対に逃がさんぞ」


囲まれていても、問題は無かった。

だって俺の体はヌメヌメしているから。

するりと間を抜けていく。


「くっそ、こいつ本当にタコ星人なんじゃないか·····?」


んなわけねぇだろ。

人混みすら難なく抜けていき、とうとう逃げ切ることに成功した。


「御影君! 待ってください」

「先生は?」

「平気です、もう来ていません」


ようやく花と合流することが出来た。

彼女も汗だくだったので、探していたのだろう。


「どこに居たんですか?」

「凛と会ったよ」

「凛ちゃんとは·····」

「いや、話せなかった」


思い出すことも拒絶するように、彼女は去っていった。

その目は悲しそうに遠くを見つめていた。


「あいつにとって触れたくない過去なんだろ」

「·····」

「ま、そんなこと関係ないけどな」

「え·····?」


ユウキにとって相手の事情など、どうでもいい。

目の前の問題を解決さえ出来ればそれでいい。


「お前だってさっさと立ち直って欲しいだろ?」

「はい·····」

「だったらあいつを過去に向き合わせろ、最終日の夜、屋上で決着だ」

「花火の時ですか?」

「あぁ、そん時だったら先生の警備も手薄になるだろ」


そう願うしかない。

だって、捕まったらボロボロにされてしまうから。















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