第58話 ヤクザ教師

ユウキは、花と共に屋台を抜け出していた。

実行委員がほぼクラスに居ないのだ。


「も、もしもし? ユウキ」

「どうしたんだよ、明日香」


焦った様子の小森から電話がかかってきた。


「あのー、怖い先生がユウキを探しているから、頑張って逃げて!」

「は? お、おい!」


そう言うと直ぐに切られてしまった。

共犯だと知られたくなかったのだろうか。


「御影君、どうしたんですか?」

「お、俺の事を怖い先生が探してるって·····」

「怖い先生って、あの先生ですか?」

「え?」


指さす先を見ると、バッチリ目が合った。


「正解! 逃げろー!」

「御影ー!」


俺は花の事など、気にする暇もなく逃げた。

人混みを利用して、素早く校舎の中へ入った。


「隠れるとこ、隠れるとこ」


近くにはさっきの空き教室しか無い。

迷っている時間はない。


「ここだぁー」


ドアを開け、飛び込む。

御影ー、という叫び声が聞こえる。

もはやホラーだ。


「な、なんでお前が·····」

「僕のセリフだよ、どうして君が飛び込んできたんだ」

「頼む、俺の事を匿ってくれ」

「どーしよっかなー」


こいつ·····。

足音が大きくなってきた。

近づいている。


「頼む!」

「仕方ないなぁ、じゃあロッカーに入って」

「おう」


俺はすぐにロッカーに入った。

もう平気だろう。


「早く詰めてよ、僕も入るからさ」

「な、なんですとー」

「時間が無いんだろ? 早く」


ロッカーで女子と2人とか、どんな同人誌だよ。

何故なんだろう。


「なんでだよ」

「僕も事情聴取されててさ、さっきの事について」

「素直に受ければいいだろ」

「あることない事、喋っちゃおうかなー」

「さっさと来い」


こいつは根っからの悪魔だ。


(なぁー、きつくねぇか?)

(君にとってはご褒美だろ)


間違いではない。

この密閉された空間では、甘い匂い、柔らかな体がモロに感じる。

一つ危惧しなければならないことがあった。


(ロッカー開けられたら、どう説明するんだ?)

(そこは行き当たりばったりで)

「御影! ここだろう」


大きな音を立てながら、先生はやってきた。

主な隠れ場はここしかないので、すぐに来るだろうとは思っていた。


「古川も居ないだと·····、この学校はどうなってるんだ全く」


凛も居ないことに気づき、学校の警備を疑っている。

先生からすれば、短期間で2人も生徒が逃げ出したんだ、監視カメラくらい欲しいとこだろう。


「見つけ次第、ボロボロにしてやる」


教室を見渡し、人気がないのを確認すると出ていった。


「ふぅー、耐えた」

「全然余裕だったね」


俺の理性よ、よく耐えた。

途中から先生とかどうでも良かったもん。

もちろん、最後の言葉は聞き逃さなかった。


「ね、ねぇ、あの人教師として言っちゃ行けない事言ってたよね?」

「そうだね」


逃げ切れば、ボロボロにはされない。

だったら必死に逃げるだけだ。


「お前と話したい事が──」

「ごめんね、僕はクラスに戻るから」

「ま、待ってくれよ」


凛は待ってくれることなく、消えていった。


「あいつ·····、このまま最後まで逃げる気だ」


明日の夜には、文化祭の締めとして花火が上がる。

何とかそれまでには、決着をつけたい。


「はぁ、厄介だよ、全く·····」


教室には、俺の言葉が虚しく響いていた。
















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