第52話 ライオンとインパラ

「·····」


絶対絶命、俺のミッションは五体満足で帰宅することだ。

ライオンとインパラのような睨み合いが続く。


「何をしていたの?」

「叶、あのねぇ·····」

「風花ちゃんじゃなくて、この子に聞いてるの」

「·····」


ダメだ、殺される。

正直、覚悟は出来ていた。

悪い事はなんにもしてないのに、まだ。


「えー、小倉さんと食事をしていました」

「わざわざ家で?」

「た、たまたまであります!」


どこかのカエルの軍曹みたいな話し方になっちゃったよ。


「貴方、祭りの日に風花ちゃんと一緒に居たでしょ」

「げっ」

「貴方は一体、風花ちゃんの何なの?」

「·····」


俺は小倉の何なんだ?

友達? いや違う。


「被害者です」

「「は?」」


明らかに俺が受けた風評被害の方が大きい。


「·····冗談は私、嫌いなの」

「ははっ、知りませんでしたよ·····」


知り合い? そんなに浅くない。

やっぱり友達か。


「実は友達です」

「本当?」

「はい」

「そう」


意外と、あっさり信じてくれた。


「話を戻すけど、この家で何をしていたの?」

「本当に食事だけです」

「家族が居ない時を狙って?」

「本当にたまたまです」


なんか浮気を疑われる夫みたいになってる。

全部が言い訳に聞こえるって、マジなんだな。


「叶、私と御影君はなんでもないわ」

「なのに風花ちゃんは、祭りの日にあんなに気合い入ってたの?」

「なっ·····」


援護射撃、即終了。


「でもなんかあったでしょ? 祭りの日」

「べ、別に·····」

「図星ね」


惚れかけたとか、見惚れてたとか無いから。

でも、思い返す度に綺麗だなって思う。


「迷子の小倉を、俺が見つけただけです」

「ベタベタじゃない」

「そんで花火を2人で見ました」


俺はあんまり花火の記憶ねぇけどな。


「青春してるじゃない、通りであの日から風花ちゃんが変なのよね」

「何がですか?」

「髪を異様に整えたり、下着の色なんかも·····」

「うるさい!」


やっと生き返った小倉は、また赤面していった。

くっそー、重要な部分がよく聞こえなかった。


「今回は何もしていないのね?」

「当たり前です」

「無罪で良いわよ」


元から無罪だわ。

譲ってやったみたいな顔すんなよ。


「本当に手を出したら·····」

「手を出したら·····?」

「分かってるよね」

「はい、ボス」


しまった、本能で仕えてしまった。


「そんじゃあ、ドロンしますわ」


俺はそそくさとその場を去った。

帰り道はいつも以上に背後に気をつけた。


「叶、どうして全てを拒絶するの」

「だ、だって心配だからよ」


叶がユウキを拒絶した理由。

それは愛だ。


「御影君は、スケベだけど悪い人じゃないわ」

「スケベなの?」

「それなりには」


ユウキの居ないところで、暴露されていく。


「御影ユウキねぇ·····、風花ちゃんはどこに虜になったのかしら」


この会話が原因で、ユウキはとんでもないストーカーを飼うこととなった。


「なんか寒気が·····」



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