第51話 俺の物語にはやはり救いが無い

文化祭まであと2週間前のある日。

クラス全員がユウキに集められた。


「よく集まってくれた、我がクラスの衣装が決定した」


手招かれて、入ってきたのは、たこのコスチュームに身を包んだ美月だった。

驚くべきは、その完成度。

特有の粘液、吸盤をしっかりと表現している。


「恥ずかしい·····」

「何が言ってみろ! カッコイイじゃないか」


クラスの反応を見ると、だいぶ引かれている。

ただのユウキの性癖なのではないか、との疑いもある。


「御影·····、お前って奴は」

「女子の敵!」

「なんで!?」


学校側からも、女子高生がローション塗れなのはどうなのか、などたくさんの疑問符が飛んできた。


「気持ち悪いから、もっと可愛くしてよー」

「バカっ、黙れぇ」


小森もからかうように、ガヤを飛ばす。

結局、女子からの猛反対を受け、もっとマイルドになった。


「くっそー、全部自費だぞ·····」

「御影君、あなたは一体何を考えているのかしら」

「え? スケベな事」


小倉に頭を思い切り殴られた。

本心が出ちゃっただけじゃないか。


「話は変わるけど、たこ焼ける人ー」

「「·····」」


一気にクラスが静まり返った。

美月の代わりも作らなければならないのだ。


「美月が1人だと大変だということなんで·····」

「はい」

「はい?」


静寂の中、手を挙げたのは小倉だった。


「私、たこ焼けるわ」

「ふーん、OK」


今日は各自解散となった。

これから小倉のテストに入る。


「お前、本当に焼けるんだな?」

「そう言ってるじゃない」

「今日テストすっぞ」

「それなら·····」


おかしい、奇妙だ。

こんなこと有り得るのか?

俺はテストを持ちかけた、それは間違ってない。


「でもこれは間違ってるだろ」

「なに? 早く食べなさいよ」


俺は小倉の家にお呼ばれしていた。


「お前さぁ、良いのか? 家なんて」

「今日は家族が珍しく居ないのよ、多分·····」

「おい、もしお前の姉ちゃんとか帰ってきたら終わるんだけど·····」


俺は、一度だけ小倉の姉ちゃんに会ったことがある。

極度のシスコンで、もし妹が男を連れ込んだなんて知ったら大変な事になる。


「美月も来なかったし·····」


美月は用事があるとかで、来なかった。

多分嘘だ。


「テストでしょ? 冷めちゃう前に食べて」

「おう、いただきます」


これまた美味。

修行をした美月と並ぶくらい美味しかった。


「これは独学?」

「まぁ、料理は好きだから」


とんでもないドヤ顔だぞ。

料理が好きとは意外だな。


「めっちゃ美味しいよ」

「ほ、ほんと? もっと食べて」


時計がちょうど7時を指す頃、最も危惧していた事が起きた。


「ぷはぁ、食った食った」


美味いたこ焼きを食べて、油断をしていたのかも知れない。

──ガチャ

俺は長居し過ぎた。


「·····! ま、まさか·····」

「あれ? 男の子の声がする·····」

「まずい! じゃあな」


気づいた時にはもう遅かった。


「どこか会ったことありますよね?」

「無いと思いますよ·····」


姉、小倉叶は既に殺気を放っていた。

















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