第39話 本当に死にかけちゃったよ

「ユウキー! しっかりして」


プールに来て僅か1時間、俺は死にかけていた。

時は30分前に遡る。


「やっぱ夏はプールだよな」


俺は美少女2人とのプールを、満喫していた。

そのチャンスは急に訪れる。


「ねーね、スライダー行かない?」

「最高」


スライダーは、3人では乗れない。

そうなれば俺が1人になるだろう。

でも、そうは問屋が卸さない。


「ユウキはもちろん1人だよね」

「──そんなこと誰が決めた?」

「「え?」」


2人が声を揃えて疑問符を投げかけた。

そんなことはお構い無しだ。


「なんで俺が1人なんだ?」

「逆になんで1人じゃないと思ったの?」


至極真っ当な正論だ。

ユウキもそんな正論では引き下がらない。


「男の勝負は、いつでもジャンケンだろうが」

「えー、なんでぇ·····」

「私たち男じゃないし」

「んな事知るか! するんだよジャンケン」


暴論。

力強さで強引に、ジャンケンまで漕ぎ着けた。


「これで負けた奴がひとりぼっちで、寂しく乗るんだ」

「えー」

「はぁ」


乗り気では無いが、グーを突き出している。

勝負と名がつけばみんな勝手に乗ってくる。


「最初はグー、ジャンケンポン!」

「しゃあ」

「げっ」

「まあまあかな」


反応は十人十色。

負けたのは·····。


「負けちった、頑張ってね」


負けたのは小森。

よって2人で乗るのは、小倉とユウキだ。


「勝負だからな、仕方ないよな!」

「終わった·····」

「頑張れー」


小森としては他人事である。

積極的に小倉の手を引いていった。


「前と後ろどっちがいい?」

「どっちも変わらないでしょ·····」


少し考えて·····。


「前で」

「ほ、本当に良いのか·····?」

「どっちでも最悪には変わりないのよ!」

「ごめんごめん」


ユウキは前が良かった。

が、仕方ないので後ろからでも女体を楽しむことにした。


「先に行かせてもらいますわ」


俺の体の至る所から、血液が作られていく。

ドクドクと脈打ち、鼓動を早めていく。


「へ、変なことしないでよ」

「わっかんねぇよ、そんなの·····」

「は?」

「検討はする」


だってさ、流れが早いウォータースライダーだぜ?

意図せずとも触れちゃうことあるでしょ。


「まぁ、楽しもうぜ」


ここのスライダーは、早すぎることで有名だ。

早すぎて一瞬に感じるらしい。

俺らもその洗礼を受けることとなった。


「がぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」


俺は何とか意識を保っているが、小倉に関しては気を失っているのか、黙りコケている。

意識を保つ事で必死になり、その他には集中出来ない。


「は、早すぎるぅー!」


もはや欠陥だろ。

近いうちに死人出ちゃうよこれ。


「ガボバァ」


スピードに乗って、スライダーから投げ出された。

ようやく終わったらしい。

何にも考える暇は無かった。


「お、小倉ァ!」


案の定、小倉は気絶していた。

気絶か? 死んでいるのかもしれない。


「死ぬな、俺が引き上げてやる」


水に沈んでいく小倉を、俺は必死に引き上げた。

そりゃもう必死だった。


「うわっ!」


夏のマジックだ。

水に濡れたプールサイドは滑る。

当然の話だ。


「おーっと、起きちゃった?」

「·····これは一体どうしたのかしら」


俺の手が小倉の胸を掴んでいた。

意識はしてなかったが、極上だった。


「お前が生きてて良かった·····」

「貴方は地獄行きよ」

「ぐはっ!」


俺のカッチョいいセリフを無視して、小倉が強烈なアッパーを繰り出してきた。

拳は俺の顎下を突き上げた。

脳までズシッとくる良い攻撃だった。


「ユウキー! しっかりして」


一部始終を見ていた小森が駆け寄る。

こうして俺は死にかけている訳だ。










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