第29話 また厄介な奴が来たよ

「すっげぇ·····」

「なんだあの人たちは·····」

「もう私辞めたい」


俺たちは着実に練習を重ね、めちゃくちゃ速くなっていた。

ついたあだ名は、チャップマン、メジャーリーガーからとられている。


「嫌なんだけど、チャップマン」

「私もよ」


どうせなら、黒烏とかチーターとかが良かった。


「勝てんじゃね、俺ら」

「そうね、周りが遅いだけかもしれないわ」

「やめとけ」


めちゃめちゃ睨まれたぞ。

打倒チャップマンになったらどうするんだよ。


「とうとう明後日か·····」


今日は6月13日、明日のリハーサルで練習は最後だ。


「緊張するな·····」

「あと二日あるのよ、もっと練習しましょ」

「おやおや、チャップマンの二人」

「もう緊張してんのかよ!」


なんだなんだ、このうるせぇ2人組は。

男女2人組は、イケメンのっぽと、うるさいチビの凸凹した奴らだ。


「僕は昨年の二人三脚トップ、最上川帝王だ」

「ホストかよ」

「気にしてるんだ、やめてくれ」


キラキラネームは親を恨みな。

病院とかで帝王って呼ばれんの恥ずかし。


「あたしは! 藤本真由だ!」

「普通なのね·····」

「普通で何が悪い!」

「うっせぇな」


普通すぎて没個性だが、隣に帝王が入ればむしろ個性的みたいな所はある。

ホントなんだよ帝王って。


「君たち速いらしいな」

「まぁ、チャップマンって呼ばれるくらいだからな」

「あたしたちの方が速いぞ!」


キャラが渋滞してるよ。


「帝王とうるせぇの何しに来た、俺らは練習してるんだよ」

「僕たちと本番、勝負しろ」

「わかった、今日は帰れ」

「早いな!」


練習より疲れんな、こいつら。

てか知らなかったわ、去年の二人三脚の王者とか。


「僕たちは新幹線と呼ばれている」

「いじめられてる?」

「速いって意味だ、別にいじめられてないし·····」

「ごめんな」


だって帝王だもんな、傷を抉ってしまったかもしれんな。

申し訳ない。


「とにかく! 絶対に逃げるんじゃないぞ!」

「ほいほーい」

「なんだ! やる気のない返事は!」

「帝王さっさこのチビを連れてけ」


良かった、声が遠ざかっていく。

俺の耳は守られた訳だ。

って、近くなってね。


「おいっ! 誰がチビだ」

「お前だよ」

「あたしはチビじゃない! まだ成長途中だ!」

「良いのか? お前の彼氏さんは行っちゃったぞ」

「か、彼氏·····?」


なーんだ、違うのか。

てっきり仲がいいからカップルかと思ったぜ。

変わりもん同士な。


「ま、まだ違うぞ·····」

「そっか、頑張れよ」

「べ、別に好きってわけじゃ·····」

「わかりやす」

「そうね、明らかに好きだわ」


声が急に小さくなった。

ごにょごにょ口ごもってるし、確定だろ。


「じゃあな、帝王の彼女さん」

「う、うるさいぞ!」


照れたのか走ってどっか行ってしまった。


「まだ練習する?」

「もう疲れた」

「そうだよな、俺も」


思いもよらぬライバル出現。

その名も新幹線。


「この学校のネーミングセンス死んでるよな」


ダサい名前なら付けないで欲しい。

切実に思った。















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