第25話 時にはロマンティックに

「·····」


心臓の鼓動がめちゃめちゃ早くなる。

イルカショーなんて全く目に入らない。

ずっと隣の小森に目がいってしまう。


「凄いよ、イルカショー」

「そうだな」


一言一句交わすのにも緊張する。

もうドキドキし過ぎてたまんないわ。

俺が単純なのかもな。


「はぁー、楽しかった」

「たまには水族館も楽しいな」


だいぶ楽しんだ。

時刻は午後3時、帰るにはちょうど良い時間だ。


「もう帰るか」

「うん、気分転換になった?」

「だいぶな、心が軽くなった」

「なら良かった」


彼女はこっちを見て笑ってくれる。

その時俺は気づいた。


(もしかして俺の事を好きなんじゃね)


恋を知らない男子高校生は、優しくしてくれるとすぐに惚れる。

生物学上、それは仕方の無いことである。


(まぁ優しいし、可愛いから無くはないな)


可愛い、優しい、しっかりしてる、この三拍子揃っていれば大抵の男子は落とせる。


「どしたの?」

「な、なんでもねぇよ」


急に顔を近づけてくるなよ。

まじで照れるから。


「ともかく今日はありがとな」

「私もありがとう、色々と迷惑かけちゃったから」


帰りの電車で、喋ることはなかった。

小森が疲れて眠ってしまったからだ。

一人の時間で俺は考えた。


(明日、素直に伝えよう)


いつまでも逃げているわけにはいかない。

面と向かって振られてしまうよりは、マシだろう。

俺はついに覚悟を決めた。


「ペンギンが一番可愛かった」

「そうか? 海蛇だろ」

「えー、違うよぉ」


こんな他愛もない会話を繰り返して、気がつけば公園に来ていた。

俺がよく訪れる公園だ。


「綺麗だな」

「うん、そうだね」

「お前が」

「え?」


たまにはロマンチックに決めてやる。

こういうセリフが女子は好きらしいからな。


「え·····、気持ち悪い」

「体調悪いのか? 家まで送るよ」

「御影の発言が·····」

「え?」


俺のネットで得た知識は間違いだったのか。

ひとまずカッコつけ作戦は失敗。


「あのね、あんまそういう発言はしない方が良いよ」

「そうか·····、何が悪かった?」

「全部、臭いんだよ」

「そ、そう·····」


何とか平常心を保っているが、内心は崩れ落ちそうだ。

恥ずかしいし、照れくさい。


「ユウキは普通にしてればモテるよ」

「普通にしてれば?」

「うん、現に·····」

「なんて?」

「な、なんでもない!」


そうか、素材が良いのか。

俺は今まで自分の素材の良さに気づいていなかった。

いわばダイヤの原石、磨けば光る。


「なんか自信でてきたわ、サンキュー」

「う、うん」

「じゃあ今日は帰るか」

「だね」


今日ばかしは平和に終わった。

もう他に何も望まないので、平凡でお願いします。

心からユウキは願うのであった。





















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