第26話 純度100%の気持ち

「グッモーニング!」

「·····」


しまった本場の発音が出てしまった。

誰も追いついてこれてないな。

全く、これからの社会はグローバルだぞ。


「ちょっとユウキ、来て」


いつに無く、真剣な顔で美月が言う。


「み、美月」


俺は、手を引かれるままについて行く。

人が居ない空き教室まで、連れていかれた。


「ど、どうしたんだよ美月」

「三橋さんの件で話があるの」

「なんだ?」


美月は昨日あった出来事を話し始めた。


「どうした? 話って」


なんと三橋が凌太を屋上へ呼び出したらしい。


「凌太、私はずっと前からあなたが好きでした」

「·····!」

「付き合って下さい」


顔を赤らめながら、精一杯の告白。

声は震え、手紙を持つ手も震えていた。


「ま、まじかよ·····」


突然の事に、凌太も戸惑う。


「だから格好とかも変わったのか?」

「うん、可愛いって思って貰えるように·····」

「·····」


凌太もとても優しい人間だ。

自分の為に努力をしてくれた三橋に、心惹かれる部分もある。

それでも心はとっくに決まっていた。


「ごめん、俺好きな人居るんだ」

「知ってたよ、それでも·····」

「美月の事が好きなんだ」

「──!」


相手も自分のことを本気で好いてくれた、だったら本心をぶつけなきゃダメだ。


「ずっと、ずっとだ」

「·····」

「だから·····、ごめん」

「っ!」


そのまま走って行ってしまった。

一人残された凌太に残ったのは、喪失感と申し訳なさだけ。


「はぁ、きついな」


見上げた空は、嘲笑うかのように綺麗な青。

呼ばれた時点で気づいた部分はあった。

傷つけてしまう覚悟も出来ていたはずだった。


「もう慣れっこだよ·····、こんなの」


弱々しく凌太が呟いた。


「本当かよ、それ!」

「うん、本人に聞いたわけじゃないけど·····」

「三橋は!」

「今日は休みだって、友達が言ってた」

「くっそ!」


俺はなんて馬鹿なことをしたんだ。

あいつは本気だった、いつでも準備は出来てたんだ。

一番、苦しんで辛かったのは他でもない三橋だろ。


「ほんとクソ野郎だよ、俺は」


俺は急いで教室に戻り、三橋の友達から住所を聞いた。

わりとすんなり教えてくれた、ここからは近い。


「待ってろよ、三橋」


絶対謝ってやるよ。

デコから血が出るくらい、土下座をしてやるよ。

だから、待ってろ。


「どこ行くんだ! HR始まるぞ」

「体調が優れないんで帰ります!」

「嘘だろーっ!」

「嘘でーす」


HR? 知ったことか。

俺は今から全力で謝罪しに行くんだよ。

実は元陸上部、体力には自信あり。


「みっけ」


たまたまベンチに座っていた三橋を発見した。

制服姿で、目は大きく腫れている。

たくさん泣いたのだろう。


「·····大丈夫か? 色々あったんだろ」

「うるさい、あなたのせいでしょ!」

「·····」

「知ってたんでしょ? 全部」

「·····あぁ」

「ほら、嘘つき」


確かに俺は嘘つきだ。

凌太の気持ちを知ってたにも関わらずに、知らないふりをした。


「ごめん、本当にごめん」


気持ちが伝わるかは分からない。

精一杯の誠意を伝えるのみ。


「俺は嘘つきだ、確かに知ってた」

「なんで言ってくれなかったの?」

「もし言ってしまったら傷つけるかと思って、怖かった」

「·····」


ありのままを、自分の本心を拙い言葉で。

ぐしゃぐしゃに歪む表情で伝えた。


「だからごめん·····」

「·····ずるい、悪いのは全部私なのに」


彼女はぼろぼろと泣き始めた。

心の内を全て吐き出すように。


「御影は悪くないの! ただの八つ当たり」

「うん」

「あの時、先を聞きたくなくて逃げた私への八つ当たり」


三橋は最後まで話を聞けなかった、自分に対しての憤り、悲しみをぶつけた。


「わかってた、凌太の好きな人が私じゃないことくらい」

「·····」

「それでも面と向かって言われると、辛い·····」

「そうだ、そうだよな」


一番辛かったのは他でもない三橋だろ?

俺は馬鹿野郎かよ、被害妄想もいい加減にしやがれ。


「俺はさ逃げたんだよ、昨日お前が頑張ってた時に」

「·····」

「本当に笑えるよな、ずっと被害者ぶってた」


ふふっと笑ってそのまま続けた。


「一番辛くて、一番頑張ったんだよな」

「·····」

「大丈夫だ、気持ちはきっと伝わってる」


1ミリも嘘なんて混じっていない。

純度100%の本心。

凌太は本気の気持ちをわかった上で、三橋を振った。


「あの時、そばに居てやれなかったことは一生かけて謝る」

「一生·····?」


俺の人生をかけて謝罪する。

謝ることが全てでは無いが、傷を癒すことは出来る。

ユウキは一呼吸置いて言った。


「ごめんな、それからお疲れさん」

「わぁぁぁ」


大きく声を上げて、泣き出した。

人目なんて全く気にせずに、赤ちゃんのように純粋に泣いた。


「ははっ、今日も学校行けねぇな」


2日連続のサボりに、先生の怒声が飛んだのは言うまでもなかった。




















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