第7話 ミッション開始

「ふぅー」


俺はつかぬ間の一人の時間を楽しんでいた。

風呂という空間は、完全なプライベートである。


「という事は·····?」


俺の頭の中を煩悩が駆け巡る。

天使と悪魔が戦っている。


『お湯くらい飲んじゃえよ』

『だ、ダメだよ、恩人なんだから』


お湯とかハードコアすぎる。

興味湧かないっす。


『下着とか·····、あるぞ』

『ダメだって、本当に人として死んじゃうよ』


そ、そうだ。

まだ俺は人として死んでいない。

本当に死ぬところだった。


「あ、あっぶねぇ·····」

「何が?」

「──ッッ!」


俺は鋭い身のこなしで、珍棒を守る。

椅子を使ってバリケードを作った。


「な、なんでここにいるんだ? 美月よ」

「んーと、背中流そっかなって」

「·····なんで?」


困惑、困惑、困惑だ。

意味が分からない。


「で、でも! ちゃんと水着は着てるし」

「だからOKって訳にはいかねぇんだよ」

「私、ユウキに本当に悪いことしたって思ってるの·····」


ずるいな、ここでそんな悲しそう顔は。

何も言えなくなる。


「分かったよ」

「本当? じゃあ入るね」

「おいおい、心の準備が·····」


入ってきた美月の格好は、人外だった。


「な、なんでお前プレデターなんだ·····?」

「だって裸とか見たくないし」


全身がプレデターになっていた。

もう誰でもいいやん。


「えー、欲しいな」

「じゃあ後で上げるよ」

「マジ!? やったー!」


俺はプレデターが大好きだ。

エイリアンアンチになるくらいのファンだ。


「じゃあお背中を流します」

「お、おう」


クールに気取ってみるが、俺は内心では心臓バクバクだった。


(なんだよこれ、どんなプレイだよ)


ソープかよ。

これは死んでも口に出せなかった。


「おおぅ、最高だね君」

「何言ってんのかな、ちょっとわかんないな」


Sっ気のある子なのか。

俺にぴったしじゃねぇか。

そろそろ辞めておこう。


「いつもより体が綺麗なってる気がするわ」

「ほんと? 嬉しいな」


プレデターだけどな。

気を抜いたら殺されてしまいそう。


「綺麗になったかな?」

「あぁ、ありがとな」


一通り、背中を流して美月は戻っていった。


「人に背中を流して貰うの癖になりそうだな」


めちゃめちゃ気持ちよかった。

仮にプレデターじゃなかったら、大変なことになっていた。


「そろそろ出るか」


風呂から出て、体を拭いている内に気づいた。

服もパンツもねぇわ。


「ど、どうする俺」


既に洗濯機は回っている。

明日着れるようにと、美月の母さんが気を使ってくれた。


「ひとまずタオルか、·····!」


俺は全神経の感覚を研ぎ澄ませ、気配がした途端に伏せた。

風呂に戻る時間は無いと踏んだからだ。

扉に手を掛ける音がする。


「ちっ、ここで向き合うしかねぇか」


俺はアリゲーターの様に伏せていた。

これならアマゾンでも通用するだろう。

ガラガラと扉が開いた。


「ゆ、ユウキ!? 何してんの!」


戸を開けたのは美月、こいつもなかなか好き者だ。


「趣味の腕立てかな」

「してないでしょ、してたらそんな腕細くないでしょ?」


バレた、俺の筋肉不足が招いた事だ。

日頃から筋トレはしといた方がいい。


「ごめんごめん、ワニのモノマネの練習」

「そうなんだ、クラスでやるの?」


ウッソだろ? だったらさっきの腕立てでいってくれよ。

こいつの先が不安で仕方ねぇよ。


「ほ、程々にしなよ·····」

「お、おい!」


残像が残るくらい早く消えていった。


「ミッション開始ってか」


現在の時刻は9時半、ユウキのパンツと服をかけたミッションが始まろうとしていた。





















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